愛なき道

オリジナル小説「二人の戦女神」と「リリカルなのはシリーズ」の二次創作を中心に活動中

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二人の戦女神第三話  

 岸野夕華が“こちらの世界”に来て、早一週間が過ぎようとしていた――
「もう一週間かぁ……」

 蝋燭の灯で少しだけ明るい部屋でガックシと項垂れる夕華。携帯で連絡を試みた一日目の夜。圏外になっていて連絡が取れない事に枕を濡らしたのも、既に一週間前の事とが思えない。時の流れはとてつもなく早いと実感する夕華。

 帰る為の情報を得ようと色々な書物を読んでみたが、そんな都合のいい記述がある訳もなく、全てが徒労に終わっていた。それ以前に、読める文献の数が少ないのも影響していた。確かに英語に近いのだが、僅かにだが意味や文体が夕華の知る英語とは違っていたりする為、翻訳作業に時間がかかってしまい、効率よく文献を読めないでいた。

 仕方なしに、先輩に憧れて始めた弓道の練習だけは続けていた。基礎的な体力作りから筋肉トレーニング。そして射法八節を弓矢を使わないで繰り返す「徒手」と呼ばれる練習を繰り返し行なっていた。
 ただ、練習をするのは時間は夜になってからにしている。その理由は、自分が暗殺者だと勘違いされないようにする為なのと、他の人に見られるのがかなり恥ずかしいというのが主な理由だった。が、それでも一人、夕華のトレーニングを近くで見ている人間がいた。それは――

「ユウカ。そなたの弓の射る動作はとても綺麗な形じゃが、何時になったら実際に射るのじゃ?」

 セレナ=フェスタリー=フランツィスカ、十七歳。現フェスタリア国の王その人だった。公務はどうしたのかと夕華は聞いてみると

「暇なのだよ、ユウカ」

 とだけ言って不貞腐れるセレナ。その様子を見て苦笑いを浮かべるしかない夕華。
 二日目に夕華とセレナが同い年と判明してから、セレナが女の子っぽい仕草などを見せるようになったのに夕華が気づいたのはつい一昨日の事。
 同い年と知るまでは雲の上の、そのまた上の存在のように感じていた。だが、同い年という事を知ってからは友人のような感覚でセレナと話しをしている夕華。ただ、それを好ましいと思っていない人が、今いるヘリーシャム城の大半であるのは理解していた。それを考えると頭痛がする夕華。
 帰れる帰れないにせよ、いつまでもセレナの好意に甘えるのはダメだと考えている夕華。それに帰れない事を前提にした時、この世界で生きていく術を考えなければならない。住居や仕事等の問題が山積みであることに気づき頭を悩ませる。

「どうなるんだろう、私……」

 今後の事を思うと不安になる夕華。不安はあるが、それでも前に進まないといけないのは理解している。部屋の天井を見上げ、まだ見ぬ明日へ不安を抱いたまま眠るのだった。




二人の戦女神
第三話「居場所(前編)」






夕華がセレナに助けられて早三週間が過ぎようとしていたある日の朝だった。

「セレナ様!聞いておられるのですか!」

 首都から送られてきた報告書を読んでいたセレナの部屋から大きな声が響く。その大きな声の影響で、外の木の枝で休んでいた小鳥達が慌てて飛びだって行った。朝から鳥迷惑な声を上げる人物は、この国でも一人しかいない。

「朝からなんじゃ、マーリン」

 大きな声を近くで聞いたというのに、涼しい表情で報告書に目を通し続けるセレナ。机の向こうで立っている、いつも通りの黒い服装のマーリンは体をワナワナと震わせながら。

「セレナ様!今日という今日は、私の話しをきちんと聞いて貰いますぞ!」

「マーリン。妾はいつも、そなたの意見を聞いておるはずじゃが?」

 ハテと首を傾げるセレナ。今まで自分がマーリンの意見を聞き逃した事があっただろうかと思い返す。それを見たマーリンの額に青筋が立った。マーリンは勢い良く右拳を机に叩きつける。その反動で、机の上に置いてあった報告書が十数枚ほど空中に舞い上がり、険しい表情を浮かべるセレナ。

「御巫山戯もいい大概にしてください!!今日も言わせていただきますが!あのユウカなる人物をいつまで傍に置いておくおつもりですか!」

 「またか」と心底ウンザリするセレナ。この一週間、ほぼ毎日のようにマーリンが問い詰めてくる問題があった。その問題になっている人物というのが、三週間前にヘリーシャムの街からかなり離れに位置する村で助けた夕華だった。
 見た事もない服装に、持ち物は弓矢だけ。旅をしているにしては装備が不十分だ。これに護身用の剣やナイフがあればまだいいのだが、そのような武器は持っていない事がわかっている。
 なら安心ではないかと判断するセレナ。だが、何も持っていないからこそ暗殺者もしくは内偵なのでは?との憶測が配下の中で広がっている。最も夕華を怪しんでいるのはセレナの目の前にいるマーリンである。

「ユウカが怪しいのは重々理解しておる。だがの、怪しいからこそ、近くに置いておくべきだと妾は思うのじゃよ、マーリン」

「ですが!」

「万が一の為に既に手は打ってある。まあ、万が一の事態など起きないと思うがの」

 マーリンの言葉を遮って続けたセレナは、先ほどのマーリンの勢いで床に落ちた報告書を拾いながら、頼んだ相手が悪かったかもしれんなと思っていた。しかしながら、頼める相手がその人物しかいないという現実に頭が痛くなるセレナ。もう少し穏便な人物が隠密行動できるように訓練させた方がいいかもしれないなと考えていた。

「……あの者ですか?なら、安心しても大丈夫ですな」

「ああ、じゃから言ってるおるじゃろ。『既に手は打った』と」

 床に落ちた最後の一枚を拾い上げて、綺麗に報告書をまとめながら「もうこの話しは終わりじゃ」と眼で訴えるセレナ。マーリンはその眼を見て深々とため息を吐いた。セレナが自分の意見を押し通そうとする時、こうやって無理やり話しを打ち切る事がある。
 その事を知っているマーリンは、これ以上の深追いは無駄だと判断し一つだけ意見をセレナに進言する。

「セレナ様、一つだけ忠告を」

「?なんじゃ」

 既にマーリンを見ずに、報告書と格闘を再開しているセレナ。右手で「さっさと申せ」と合図を送っているが、マーリン以外の人間にしたら失礼極まりない。幼い頃から共に過ごしてきた仲だからこそ許される、と言えば聞こえはいいが、この場合はマーリンの性格が一番大きいだろう。さほど気にした様子を見せないマーリンは、意を決して口を開く。

「ユウカなる人物と『友』になろうとは思わないことです」

「なっ……」

 マーリンの発言に読んでいた報告書を落としかけるセレナ。その動揺する姿を目の当たりにしたマーリンは「やはり……」と小さく呟いた。今までセレナは同い年の「友」と呼べる存在はいなかった。
 王の娘という事もあって、城で教育を受けていたというのもあるが、村や街の子供たちや親がセレナの事を敬遠していたのが原因だった。そして気づけばいつもセレナは一人だった。遊ぶ相手もいなければ、心を許せるような相手もいなかった。
 その反動からか、十三歳を過ぎた頃から賊討伐へ赴くようになった。「もう少しお淑やかに育って欲しかったんだが」とは、今や亡きセレナの父、フェスタリー三世が苦笑を浮かべながらマーリンに言った台詞だ。

「もし、あの者が暗殺者だった場合、セレナ様は斬る事ができるか……できない場合はこの国が滅びるということをお忘れなく」

「マーリン、お主に言われなくても分かっておるわ!私を誰だと思っておる!」

 ダン!と机を叩き、勢いよく立ち上がるセレナ。その表情には怒りが浮かび上がっており、公務をしている時は表情をあまり変えることの無いセレナにしては珍しい事だった。
 マーリンはこの反応を予測はしていた。後はセレナがどう判断して動くかだ。万が一、動けなくなった時は自分が――

「分かっておられるのでしたら、私からは何も言いませぬ。では、私はこれで失礼いたします」

 そこまで考えたが、今のセレナの目の前で考えていた事を言ったら、火に油を注ぐかのように激怒されるのが目に見えている。セレナの頭を冷やす時間が必要だと判断したマーリンは一礼して部屋から出て行った。

「……分かっておる。そのぐらい妾も分かっておる……マーリン」

 部屋に残ったセレナは立ったまま俯いてそう呟いた。その体は小さく震えていた。





「今日はどうしよう」

 部屋のベッドに座り腕を組んで悩む夕華。やる事が特にないのだ。情報を集めようにも、この城にある本は片っ端から読んでいる最中だが、読んでも無意味だと半ば諦めていた。その為、調べ始めた当初と比べると効率がガクンと落ちているのは、夕華自身も分かっていた。
 だからと言って、部屋でゴロゴロするのはいかがなものかと考えている時だった。部屋の扉をノックする音が聞こえた。まだ朝食を取ったばかりの時間に、誰だろうと思いつつ返事をする夕華。

「ユウカ、少し良いか?」

「あ、セレナ。ちょっと待ってて」

 扉の向こうから聞こえてきたのはセレナの声。少し急いで入口へ向かい扉を開ける。そこには騎士甲冑を着たセレナが立っていた。騎士としての正装。これから何かをしに向かうのだと、中世については全く知らない夕華でもすぐ理解した。

「ユウカ。急な話しで済まぬが、首都の方で少々問題が起きてしまっての。少しこちらで休みすぎたようじゃ」

 と肩を竦めてため息を吐くセレナ。休んだと言っても、王としての責務はこちらでもやっていたのだが、セレナがいなければ解決できない問題がここ数日多発していて、首都の役人達が悲鳴を上げたのだ。

「しばらくこの城から妾は居なくなるが、その間に何か困った事があったら近くの者に話せば大丈夫じゃ。わかったか、ユウカ?」

「えと、つまり私は留守番ってこと……かな?」

 と、首を傾げつつ答える夕華。つまるところそうなのだが、夕華はそのことに不安を覚えていた。どこの誰とも分かっていないような人間をこうも簡単に自由しても大丈夫なのだろうかと……。
 勿論、セレナが何か考えて行動しているのは分かっている。そうでなければ王という立場にいられないはずだと思う夕華。自分の知らない所で監視されていて、悪さをした瞬間、後ろから刺されるかもしれない。

(うう……想像しただけで寒気が)

 自分で想像した事に震えそうになったが、セレナの前なので我慢する。残念な事に、その夕華の小さな努力は本人が気づかないだけで、表面に出てしまっておりセレナは気づかないフリをしていただけだった。
 何を考えているかまではセレナも分からなかったが、大方自分がいなくいなる事による不安等だろうと予測はついていた。しかし、だからと言って自分が残るって一緒にいるのは、仕えている者達への裏切りになる。

 王として生きるという事は、「個」を殺して「共同体」の為に物事を考えなければならない。そう子供の頃にセレナは父に教えられた。頭では理解していたつもりだが、ここ最近で自分は全く理解していなかった事をセレナは痛感していた。

「簡単に言えばそういう事じゃ。一つだけ言っておくが、決して城の外には出ぬようにな。何が起きるかわからぬからの。では、妾は今すぐにでも発つ準備をするので、これで失礼するぞ」

「う、うん。あ、気をつけてね。セレナ」

 と、最後は笑顔を浮かべてセレナを送り出そうとする夕華。まるでこの会話が最後になるかのような錯覚を覚えたセレナだったが、気のせいだと心の中で自分に言い聞かせ、笑みを浮かべて

「ああ、行ってくる」





「行っちゃった……」

 ベッドでゴロゴロしながら、先ほど見送ったセレナの事を思う。セレナは白い馬に乗って護衛の兵士二十人を連れて首都フェスタリアを目指して出発した。その際、セレナがマーリンや兵士長と思われる人物に何か指示を出していたのだが、その様子を部屋の窓から見ていた夕華は、改めてセレナが王であるという事を認識していた。

「同い年で王様って凄いよね……」

 セレナほどしっかりしている人物が王なら、この国に住んでいる人も安心だろうなと思う夕華。あまり政治は得意ではないのだが、一国の王としての仕事はどんなものなのだろうかと、暇潰しがてらに考えてみる夕華。

「王様って、日本で言えば総理大臣と同じだよね……。うん、やっぱり雲の上の存在だね」

 考え始めた途端横道に逸れたが、一般市民な自分が総理大臣と知り合いってのは想像が出来ない夕華。ご近所さんという関係も想像が難しいのか、首を捻って悩む。ふと、セレナと服を買いに行った時に、周囲の反応がどうだったっけと思い返す。

「確か……」

 王としての服装ではなく(こちらの世界の)一般市民の服装をしていたとは言えど、街の人々はセレナの事をフェスタリア国王セレナ=フェスタリー=フランツィスカとは気づかなかった。

「でも、服装を変えた程度なら普通、気づくよね……?」

 偶然生まれた疑問。確かに有名人で、私服に着替えたら気づかないという人も数多く存在はしていたが、一国の総理大臣の私服姿を見て気づかない人は果たしてどのぐらいいるのだろうか?

「そう考えると不思議だ……誰一人セレナの事に気づいていなかったし……」

 セレナが自分で「王」と名乗った時は別としても、あれだけの野次馬がいたのだから誰かしら気づいてもおかしくない状況だったはず。なのに誰一人気づかなかった。

「ムムム……」

 どこかの漫画に出てくる、とある武将が今の夕華を見たら「何がムムムじゃ!」と叱責していそうだが、幸いな事に今この場には夕華しかいない。だが、夕華だけでは謎が解決しそうにないのが現状である。
 この疑問で一つ、夕華が忘れている事がある。「この世界」が「現代日本」ではないということだ。「この世界」は「現代日本」のように通信が発達していない。ほとんどの情報の伝達方法は手紙である。後は伝聞による情報の共有なので、途中で情報が大袈裟になる事が多々ある。

 セレナを知らない人がいるというのは、その情報の共有が出来ていないというのが主な理由になる。テレビの様な媒体で、国民全員がセレナの顔を見た事があればいいのだが、そういう媒体は無い環境ではセレナの名を知っている人間はいたとしても、顔まで知っている平民は多くはないのが実情だ。

「むぎゅー?」

 悩み始めて既に五分以上が経過しているのだが、今だ謎を解決できず、変な声を上げて唸る夕華。どうやら謎を解明するにはまだ時間がかかりそうな勢いではあるが、様々な視点で考えているようだが、まだ答えにはたどり着くまでには行ってないようだ。

「うう、なんで……あ!!」

 悩んでいた夕華は唐突に大きな声を上げた。慌てて自分の荷物を漁り、奥の方に隠すように入れておいた携帯を取り出す。そして、その携帯を見て納得したように頷き

「そっか……ここ――この世界――って通信機器が全く無いんだ。だからセレナを見たことない人の方が多いんだ」

 悩む事十分近く。やっと情報ツールの差に気づいた夕華は、納得したよう両肩の力を抜いて小さくため息を吐く。それと同時に、この世界では今まで身についた感覚で物事を考えてはいけないという事を改めて認識した。

「うーん……こっちの歴史も分からないから誰かに教えてもらいたいな……。誰か教えてくれそうな……人いな……適任な人がいるじゃない!」

 軽く音を立てるように両手を合わせる夕華。その適任者を探しに今すぐにでも行こうかと考えた夕華だったが、自分の立場を考えて少し様子を見ようと決める。
 今の夕華の立場は「怪しい客人」であるのは、夕華自身も感じていた。いや、正確的には記憶喪失を装った刺客か、諜報活動の為に侵入した敵国の人間と思われている事は知っていた。

(まあ……メイドさん達が堂々と聞こえるような声で話していたら……ね)

 それは数日前の夕食後の事。また城内で迷子になってしまい、その時盗み聞きした話しを思い出す夕華。
 迷子になって、なんとかして自分の部屋に戻ろうと彷徨っていると、廊下の突き当たりから女性達の話し声が聞こえてきた。恥ずかしいけど、この人達に聞けば自分の部屋に戻れるかもと思い、夕華が声をかけようとした時だった。

「あの、ユウカって人もしかしたら刺客かもしれないわよ」

(え……?)

 その言葉に動きが止まる夕華。どういう事だろうと向こうから見えないように隠れて、耳を澄ませて女性達の話しを聞く。
 その場にいたのは三人のメイドで、一人はセミロングのやや身長が高めのメルリーと、夕華と同じぐらいの平均的身長のカーラ。そしてその三人の中で一番身長が低いジューラの三人だった。どうやら仕事が一段落し、三人で話しをして暇をつぶしているようだった。

「そうかなぁ……普通の平民にしか見えないけど?」

「うんうん。私に話しかけてきた時なんて、ずっと敬語で、どっちが上かわからなかったわよ?」

「いい子だよね?」

「うんうん。あの子見ていると、なんだか妹が出来たみたいに思っちゃうのよね」

「ああ、分かる分かる。私もそうだもん」

メルリーとジューラは笑顔を浮かべて話す。妹云々はさておき、これは夕華の性格が影響しているのは言うまでもないだろう。それに、まだ不慣れな場所での生活をしている夕華は、同い年と分かってから仲良くなったセレナ以外全員に対し、敬語を無意識的に使ってしまっている。

 その事をセレナに注意されているのだが、どうにもこうにもまだ生活に慣れないので敬語が出てしまっているのであるのだが、それは仕方の無い事ではある。ただ、時々見せるオドオドした行動は、怯えている小動物を連想させるようでメイド達からは可愛いとの声が上がっているのは夕華は知らない。

「あんた達、それに騙されちゃダメよ」

 夕華の事を刺客と発言するメイドの中で一番噂好きのカーラが二人に忠告をする。ただ、二人ともカーラの噂好きには酷い目に合っているので、その時はあまりまともに相手にしようとは思っていなかった。

「騙すって……あの子がそんなこと出来るかな?」

「私も同じ意見。あの子嘘つくのヘタそうだもん」

(それはどういう意味ですか!?)

 心の中でメルリーとジューラにツッコミを入れる夕華。自分では気づいていないようだが、夕華は嘘や演技が得意な部類には入らない。それは学校のクラスメートや部活のメンバーですら口を揃えて言っている。
 ただし「『ある事』になると、演技ではないのだけども迫力が増す」とはクラスメートが話していた事を思い出す夕華。「ある事」って、結局何だろうと思いながらも会話を聞く事に集中する。

「確かにあの子は素直だわ。でも、その素直すぎるのが怪しいのよね」

「カーラ、どういうこと?」

 カーラに二人の視線が向く。二人ともセレナが夕華を連れてきた時からずっと夕華の事を見ているが、いい子だと認識していた。なので、カーラに怪しいと言われて疑問しか浮かばなかった。

「よく考えてみなさいよ。素直ってことは相手……この場合セレナ様ね。が、気を許す可能性が高くなるじゃない?」

「まあ……」

「確かに」

 カーラの言う事も一理あると頷く二人。ただ、それが夕華イコール刺客と繋がるのかはいまいち理解できていない様子。それを見たカーラはフフンと鼻を鳴らして、自分の推理を話し始めた。

「よく考えてみてよ。セレナ様に会いに来た客人が『偶然辿りついた村』で襲われそうになって、セレナ様に助けられたって話し。どこをどう見ても怪しいじゃない」

「そうかなぁ?別によくある話しだと思うんだけどなぁ」

「そうよね……旅をしていたら襲われるってよくある話しよ、カーラ」

 ジューラとメルリーはお互いの顔を見て首を傾げて、「よくある話しだよね」と確認し合う。旅をしていて襲われる事なんてよくある事らしく、それを聞いた夕華は眩暈を覚えていた。改めて自分がいる“世界”が、死と隣り合わせという事を思い知ったからであるのだが、その事を知らないメイド達の話しは続く。

「でも、タイミング良くセレナ様が現われなかったら……?って考えると、セレナ様の姿を見て襲われているように見せて接触を試みて……」

「はいはい。妄想はそこまでにして仕事しましょ」

「そうだね。カーラの妄想はいつもの事だし」

 と、聞いていた二人は呆れた声で話しを打ち切り、仕事に戻ろうとする。それに慌てたカーラが少し大きな声で二人を止める。

「ちょっと待ってよ!この話し、マーリン大臣とクライブ兵士長が話していた会話なのよ」

「……それ本当でしょうね?」

「カーラ……言っていい事と悪い事あるからね、ね?」

「ちょっと、ジューラ。その言い方は酷いわよ!」

 と背伸びをしてカーラの右肩にポンと左手を置いたジューラに怒るカーラ。自分がどれだけ噂を流して、みんなに迷惑をかけてきているのか、カーラがあまり理解していない事に頭痛を覚えつつメルリーは

「それで、マーリン大臣はクライブ兵士長になんて言っていたの?」

「えっと……『数日後にセレナ様が首都へ向かう。その間に……わかっておるな』ってクライブ騎士長に言っていたんだけど」

「だけど?」

 メルリーが右手で髪を掻きあげつつジト目でカーラを見る。カーラがこの後何を言うか、メルリーは大体予想していた。それと同時に、カーラが人名を出すという事は本当であるという事を理解していた。誰かからの伝聞なら「○○さんから聞いたんだけど」と前置きが入るのがカーラの噂話の特徴であるからだ。

「隠れてから聞き取れなくて」

 テヘリと舌を出すカーラ。メルリーとジューラは二人揃ってため息を吐いて

「仕事に戻りましょ」

「そうだね」

「あ、ま、待ってよ!」

 カーラを置いて仕事に戻る二人。その後を急いで追いかけるカーラ。隠れて話しを聞いていた夕華はペタンと地面に座り込んで放心状態だった。
 まさか、そんな事になっているとは思ってもいなかった。よくあるメイド達の噂話ではあるが、こちらにきて日が浅い夕華にとってはショックが大きかった。

 城にいるほとんどの人間が疑いの眼差しで自分の事を見ているのではないのか?ここは安全だと思っていたけど、もしかして逃げ場がない?など、様々な疑問が生まれては消えていき、どうすればいいかわからなくなって今にも泣きだしたくなった夕華。

「……私、居ちゃいけないのかな……」

 俯きポツリと呟いてフラフラと、まるで何かに憑かれたかのように立ち上がる夕華。その後、自分でもどうやって部屋に戻ったか記憶していない。ただ気づいたら既に朝で、頬を涙が流れ落ちて、自分が泣いていたと事実だけは分かった。





「……はぁ」

 その事を思い出して、気が滅入る夕華。セレナが居ないという事は大きな後ろ盾がないという事である。セレナが居ない間に自分を消して、セレナが戻ってきた時には「親戚が見つかりそこへ向かった」と報告し、夕華の証拠など残さなければ疑われる余地は無い。
 それに、セレナが言っていた「城の外に出ないように」というのはもしかしたら――

 そこまで考えて、その考えを振り払うかのようにブンブンと頭を横に振る夕華。

「セレナがそんなことする訳が無い」

 少し震える体を抱きしめるかのように抑えつつ、自分に言い聞かせる。そもそも、本当に――するつもりだったら三週間も自分の事は放置してないはずだ。

(でも……ううん。セレナを信じよう。そんな事する人じゃないって)

 不安はある。それでも今はセレナを信じる夕華。三週間と短い期間ではあるが、セレナが本当に自分の事を心配してくれているのは分かっている。だからこそ、セレナを信じようと思うし、もし裏切られたらそれは自分が悪いと思えばいいだけだと無理やり割り切る。

「セレナが帰って来るの何時になるんだろう……帰って来る前に決めておかなきゃ。今後の事を……」

 いつまでもセレナの好意に甘えている訳にはいかない。近いうちにどこかの街にでも行って、仕事を探して暮らす。それで――

「……帰りたい」

 ここ最近、考えないようにしてきた事を呟く夕華。他人の前だと笑顔でいるように心がけてきたが、今はセレナが用意してくれた部屋に一人。気づかないうちに泣いていたあの日を除けば夕華は泣かなかった。
 いや、そんな余裕は無かったと言うべきか。帰れる方法を探して、城にある本という本を片っ端から読んだり、セレナに強制的に連れられて街へ足を運んだりと、様々な事を体験していた。

 充実していると言えばしている三週間だった。……でも、家が恋しい。学校の級友に部活の先輩達。目を瞑れば色々な人の顔が思い浮かぶ。帰れない今、夕華はこの世界に一人ぼっちで、本当の事を言える人がいない。相談できる相手がいない。
 それはストレスや不安となって夕華の心に重くのしかかる。気が重くなった夕華は盛大に溜息を吐いて、窓から空を見上げて小さく呟いた。

「居場所あるのかな……」





 蝋燭の灯が微かに漏れる城内のある一室。そこにマーリンは全身黒装束の男と会話をしていた。男は目だけ出している以外、口も黒い布で隠していた。

「して、小娘の様子は?」

「……至って変わりは無い。ただ……」

「ただ?」

 含みを持った男の発言にピクリと眉が動くマーリン。まさかセレナの身に危険が及ぶようなことを、あの小娘が仕出かそうとでもしているのかと瞬時に考えるも、男が何を言うかを待つ。しかし、男の口から出たのはマーリンが思いもしなかった事だった。

「……歴史を知りたがっている」

「は?」

 素っ頓狂な声を上げるマーリン。しばらく硬直した後に、今なんと言ったと視線で訴えるマーリン。自分の聞き間違いであることを祈ってだ。しかし男は同じ言葉を繰り返した。

「だから……あの女、歴史を知りたがっている。それと居場所を探している」

「歴史?何の為にだ?……それと居場所?」

 腕を組んで男に確かめるように視線を向けるマーリン。背を壁に預けて立っている男は小さく頷く。沈黙が部屋を支配する。一方はどういう事だと思考を巡らせている為、もう一方は自分の聞かれた事は今のところ話した為だ。

「……シャドウ。小娘が言う『居場所』の意味は分かっているのではないのか?」

 もしかしたら、分かっていて話していないのではないのかと疑問を抱いたマーリンは、オブラートに包んで聞くような真似はせず、率直にシャドウと呼んだ男に問う。分かっていても、目の前にいる男なら隠すだろうと半分諦めていたからだ。しかし、シャドウの答えはマーリンを驚かせる。

「ああ、分かっている」

「なっ!?」

 驚きの声を上げ、椅子から落ちそうになったマーリン。慌てて机に手を置いて、尻から床に落ちるような事態を避ける。わたわたと椅子に座りなおし声を張り上げる。

「どうして言わないのだ!」

「……聞かれなかったからだ」

 白々しく答えるシャドウを、視線だけで人が殺せるような眼で睨み、ギリッと喰いしばるマーリン。シャドウはそれを見て見ぬフリをし眼を瞑る。
 しばらくその状態が続いたが、マーリンが折れシャドウに「話せ」とだけ言って盛大にため息を吐いた。シャドウはそれに頷き話しを始める。

「…………というわけだ。現状を考えると、間諜もしくは暗殺者である可能性はかなり低い。それ以前に、俺としてはあんな暗殺者がいるのなら見てみたいところだ」

「つまり……本当に『ただの小娘』ってことだな?」

 暗殺の心得のあるシャドウの報告を聞いて「ウムム」と唸るマーリン。まさか、あの小娘(夕華)がセレナの好意、そしてそれ以外の者達の自分を見る目が厳しい事を知っているとは思わなかったマーリン。それ以上に、まさか――と考えていたとは。

(ならば、あの小娘をセレナ様の――)

 そこまで考えて、それは早計だと頭を振るマーリン。正体不明の者をいきなりセレナの近くに置くのは、他の大臣や口だけの貴族達の反発を招く。ならどうするべきか、白い髪の毛が更に白くなりそうな位に考えるマーリン。

「記憶喪失と言うのはあながち本当やもしれん。が、どうしたものか……」

 いい案が浮かばず、愚痴をこぼすマーリン。それを聞いたシャドウは顔一つ変えずに

「……明日にでも処分するか?」

「それこそ早計と言うものだ。それに、セレナ様が発って一日も経っていない。気づかれたら……」

 マーリンがシャドウに目で「それ以上は言わなくても分かっているな?」と訴えると、シャドウは小さく頷き

「なら様子見だな。で、明日辺り大臣殿に『歴史を教えてくれ』と言ってきたらどうする?」

「それこそこちらとしては歓迎する所だ。話しをしていればあの小娘の人間性が分かるいい機会だ」

 夕華とはまだまともに話したことが無いマーリンにとって、夕華が自分の所にくるのは好都合だった。もし、何か変な事をしようとするのならば、この手で葬り去る事も出来る。そう考えると自然と笑みが浮かぶマーリン。
 その笑みを見たシャドウは、また変な事を考えているなと思いつつ「あの小娘の監視に戻る」とだけ言って、消えるようして部屋から去った。

「後はあの小娘がただの小娘である事を願うだけだ……」

 椅子に体を預けて天井を見るマーリン。あの少女が現れてから、セレナの表情が少し穏やかになった気もする。先代の王、フェスタリー三世が崩御してから、ずっと王としての責務を全うしていたセレナ。王としての厳格な雰囲気が、周囲の者達ですら近づけさせないほどのものだったが、今は幾分かその雰囲気は薄れている。

 その原因は夕華であるのはマーリンは理解していた。セレナの生涯で初めてできた同い年の話し相手。それがセレナにいい影響を与えているのは否定しようがない。ただ、正体不明なのがいただけない。もし、これが貴族だったらまだ――

「……まだ、味方も分からぬ小娘に何を期待しておるのだ、私は」

 深々とため息を吐く。何をするにしても明日、小娘が来てからだ。そう言い聞かせて机の上に散乱する書類を整理するマーリン。少しだけ、本当に少しだけだが、明日に期待を抱いていた――




次回 二人の戦女神
第四話「居場所(後編)」
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