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愛なき道

オリジナル小説「二人の戦女神」と「リリカルなのはシリーズ」の二次創作を中心に活動中

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二人の戦女神第十七話  

 隣国パルハーミエがフェスタリアへ攻め込んできている――


 その話が舞い込んだのはつい今し方の事。その数、約五千。ヘリーシャム城にいる戦える兵は約二千。城内の兵士数の約二.五倍もの兵士が国境を越えようとしているのだ。
 フェスタリアの隣国パルハーミエ国。フェスタリア国から見て北西に位置するフェスタリア国よりも小さい国である。主産業が農業であり、貧富の差があまりない国ではあるが、全体的に豊かといえばそうではない。農作物が作れる土地が少ないため、他国へ輸出するだけの量が取れないのだ。国内の民がその日を過ごせるだけの農作物しか生産できないでいる。
 尚、フェスタリアを中心とした時、東にグランドフォール国、西にラースティン帝国が位置している。そしてフェスタリアの南部には海が広がっている。その反対側はフェスタリア国よりも小さい国々が幾つか存在している。
 そのいくつか存在している小国の一つがパルハーミエ国であり、現国王はラウル=ハーヴェ。四十九歳になる好戦家である。小国ながら、帝国と幾度となく戦争をして勝っているほどの実力者ではあるが、内政がいまいち効果的な策を打ち立てる事ができない為、国として発展出来ずにフェスタリアに比べても小国程度――それがパルハーミエの現状であった。
 今回、フェスタリアへ攻め込むにあたり、国王であるラウルはある将軍をその任に就かせた。その将軍というのが、知将と評価されている今年三十六歳になるアーウィン=クラウディアだ。戦況を読むのに長けており、小規模な戦いでは負け無しであり、圧倒的戦力差がある大国ラースティン帝国相手にも負けた事は無い。

 そのアーウィン将軍の相手となるのがフェスタリア国ヘリーシャム城の守備兵隊長、クライブ=ベルティ率いるヘリーシャム城の兵二千だ。現在ヘリーシャムには正規の将軍がおらず、代理という形で守備兵隊長であるクライブが今現在主力兵士を集めて軍議を開いていた。
 だが、クライブ達には攻め込んでくる相手を撃退しうる戦略を考えられる人材がいなかった。既に首都にあるフェスタリア城へと援軍要請を送ったが、援軍が到着するのは早くて二日後。アーウィン将軍率いるパルハーミエ軍がヘリーシャムへ到着するのは一日と少しかかるだろうとの斥候からの報告だった。
 その為、約一日ほどパルハーミエ軍の攻撃をヘリーシャムの兵士だけで耐えなければならない状況だった。正面から戦えば勝てる要素などどこにも無く、籠城戦しか作戦が無かった。


「それで……どうしてその隣国であるパルハーミエ国がこのフェスタリアに攻めてくるかですって?」

「あ、はい。私、そこまで詳しくなくて……」

 と、ヘリーシャム城で休養している岸野夕華は、割り振られた部屋でメイドの先輩にあたる、ヘリーシャム城名物三人メイド娘の一人、セミロングのやや身長が高いメルリーに話を聞いていた。メルリーはカーラとジューラと同期で、その二人とよく一緒に仕事をしている。夕華が静養という名目でヘリーシャム城に帰ってきた際、フェスタリア城で何があったかをリーシャからの手紙で知っていたメルリー達は、夕華をお世話するという名目で暇さえあればお茶会を開いていた。
 リーシャは夕華が休暇中に無理をしないように監視役に三人に手紙を書いたのだったが、そんな事をメルリー達がするとまでは考えていなかっただろう。そのお茶会の効果もあってか、メルリー達と仲良くなった夕華はパルハーミエがフェスタリアに攻めてくる理由を三人の中でも冷静に分析できるメルリーに聞いてみたのだった。

「考えられるのは二つね。一つは領土拡大。パルハーミエって国はね、フェスタリアに比べ資源が少ないのよ。なら、資源がまだある国で、なおかつ自分達の兵力で奪えそうなフェスタリアに侵攻しようって考えたんじゃないかしらね?」

「なるほど……。それでメルリーさん、もう一つは何ですか?」

 メルリーの説明を聞いて、この世界もあっち(自分の元居た世界)とあまり変わらないのだなと心の中で思いつつ夕華は、メルリーに二つ目の理由を問う。メルリーは少々困った表情を浮かべたかと思うと「これはあくまで憶測よ」と前置きをしてから二つ目の理由を説明する。

「もう一つの理由というのが、パルハーミエ国の王……ラウルという人物が好戦家なのよ。面白おかしくという言い方は相応しくないと思うけど、戦いをするのが趣味ってのが過言ではない人物なのは確かね」

「戦いが趣味って……国民や兵士さん達はいい迷惑ですね……」

 自分達の納めた税金で王が戦争を起こし、兵士達の多くが死ぬ。そう考えるとやるせない思いになる夕華。だが、この世界ではこれが当たり前なのだろうと割り切るようにする。でないと、この世界で生きて行く自信が無くなるからだった。

「そうね。攻め込まれる方にとってもいい迷惑だわ。今回は戦力差は明らかだし、このままだと一日も持たないかもしれないわね……」

「ですね……」

 二人の間に暗い影が落ちる。夕華もこの城の兵士数を聞いて戦力差が絶望的であることは理解していた。自分自身も最後まで抗うつもりではいるが、それが大局的に見て何らかの影響があればいいが、一人抗った所で勝敗に影響するわけがない。
 この状況を打破できうる策が無いかと言えばそうではなかった。ただ、このヘリーシャム城近郊の地理を把握していない夕華。だが、何もしないまま命を落とすのだけはしたくはなかった。だが、今の夕華の身分は一介のメイドであり、静養中の身。メイドが考えた策を聞いてくれる人はいるだろうか。不安だけが夕華の中で渦巻いていた――




二人の戦女神
第十七話「メイドが提案する作戦」





 話しは約五日程前に戻る。フェスタリア国首都フェスタリア。その城内にあるセレナの自室に夕華は呼び出されていた。まだ腹部を刺された傷が癒えていない夕華は、どうして自分が呼び出されたのか分からないでいた。セレナの部屋の前に立ち、緊張する心を落ち着かせるように一息ついてから扉をノックする。

「セレナ様、夕華です」

「うむ、入るがよい」

 部屋の中からセレナの声が聞こえ、夕華は「失礼します」と言ってから扉を開ける。そこには夕華にとってメイドの先輩であるリーシャがセレナの隣に控えていた。リーシャが居る事は当たり前といえば当たり前ではあるが、夕華がリーシャが居た事に驚いたというのも事実。
 しかし、それに驚いているようではこの世界では生き残れない。と、すぐさま思考を切り替えて平静を装う夕華。こちらの世界に来て、最初の頃は驚きの連続だったが、こちらの世界に夕華が慣れてきたという事か。

「ふむ……ユウカ。普通に歩く程度なら痛みはないようじゃな?」

 入ってきた夕華を見ての第一声がそれだった。一瞬何の事かと理解できなかった夕華だったが、自分が負っている傷の事をセレナが言っているのだと気付き、頷いてから

「あ、はい。荷物等の重いものを持たなければ大丈夫……かと」

 答えながら、セレナの表情に若干の怒りが見えた夕華。言葉の最後の方は恐る恐るといった形になってしまった。どうして怒っているのだろうかと疑問を抱いていると、セレナの横に立っているリーシャが口を開いた。

「ユウカちゃん。口調、口調」

「あっ……ご、ごめん。セレナ」

 言われてすぐセレナに謝る夕華。今は公式の場ではない為、セレナに対して敬語を使わないようにするという三人の決まり事。急に呼び出された為、公式の場と思っていた夕華だったが公式の場ではないという事をリーシャの言葉で理解した。その夕華を見てからセレナは小さく息を吐いてから

「まあ、そなたの性格からすれば、公式な呼び出しと思ったのじゃろう。それはいいとしてじゃ」

 若干呆れた口調のセレナ。思っていた事を見事に当てた事に対し「お、お見事」と心の中で夕華は思いつつセレナをじっと見ながら次の言葉を待つ。セレナはコホンと芝居がかった咳をすると

「ユウカ、そなたの状態はメイドとしての仕事を遂行できぬ。そこでじゃ、ユウカ。そなたに休暇を与える事を決めた……という事を伝える為に呼び出したのじゃ。」

「休暇……ですか?」

 首を傾げる夕華に対し「うむ」と頷くセレナ。確かに今の夕華の状態では、怪我前のようにメイドとしてセレナに仕える事は不可能である。それは夕華も十分理解していたし、このまま出来る範囲だけやっていても周りのメイドや夕華を指導しているリーシャに迷惑がかかってしまう――と思っていた。
 そんな時にセレナからの休暇を与えるという話。それは夕華にとってとてもありがたい話しだった。夕華の傷を治療した医者のジェフも「できるなら一カ月ほど休養するように」と指示を出していた。だが、夕華は一つだけ不安があった。それは――

「で、でも、私に休暇って……いいの?」

 そう。一メイドにすぎない夕華が長期の休暇をもらっていいものか――という点である。リーシャからメイドには長期休暇もあるという話は聞いているが、そうそう貰えるものではなく、こちらの世界で今いるフェスタリア国のフェスタリア城しか帰るべき場所がない夕華は、自分には無縁の物だと思い込んでいた。

「取っても大丈夫よ、ユウカちゃん。セレナ様には私からもお願いしたから」

「え、リーシャさんが?」

 夕華の疑問にセレナの代わりに答えるリーシャ。実はリーシャも夕華の怪我の具合を考慮して一カ月ぐらいは休ませるべきだと判断しており、数日前に夕華に休暇を与えては?とセレナに提案したのだった。
 夕華が真面目に仕事をしている事は、フェスタリア城のメイド達や兵士達も夕華の動きを見て分かっていた。仕事振りもそうだが、夕華の人受けの良い性格もいい評価に転じていた。
 それだけでも十分だというのに、この間起きたセレナ暗殺未遂事件で、自らの体を投げ出してまでセレナを刺客から護った事で、一気に夕華に対する評価が上昇していた。一部の兵士達の中では夕華の親衛隊なるものが出来たそうだが、それはそれで今は置いておく。そして昨日、一部メイドからリーシャに対して

「ユウカちゃんを正式に休ませてあげてください!」

 と嘆願書がリーシャに届いた事を夕華は知る由もない。その嘆願書を見たリーシャは内心ホッとしていた。それもそのはず。いくら仕事を頑張っているとはいえ、出身地不明の記憶喪失者。記憶喪失というのはセレナの誤解からなのだが今は置いておく。
 当初は敵の間諜と思われていた夕華だった。その夕華を仲間として迎えていてくれているのかとリーシャは不安だったからだ。内心でその事に喜びながらも、冷静にその嘆願書を受け取ったリーシャが、満面の笑みでそれを持ってセレナの所へ行ったのは言うまでもない。

「うむ。そこで、妾の故郷であるヘリーシャムで一カ月ほど休むがよい。ヘリーシャムならユウカも一時(いっとき)居た場所じゃ。何も問題はないであろう」

 その嘆願書を一通り読んだセレナが下した判断は、一か月の休養。しかもこちらの世界では帰る場所の無い夕華が過ごしやすいであろう場所を選んで――だ。

「え、えと……本当にいいの?」

「良いと言っておろう。ユウカ、妾が嘘でも言うと思っておるのか?」

 と、少々不満そうに話すセレナ。どうやら自分が嘘をついていると思われている事に不服なようだ。セレナが嘘を言うのは全くではないが、ほとんど無いと知っている夕華は慌ててセレナを宥めるのだった。それが五日前の事だった――



 メルリーが部屋から出て行った後、夕華は部屋に置いてあった城周辺の地図を見ていた。城のすぐ横には夕華がセレナと一緒に買い物へ行った街がある。そこから視線を移動させていくと広い草原を通り越した先に森がある。そしてその奥には山があるのが分かる。夕華の予測ではあるが、相手――パルハーミエ国――はこの山を越えて森を通って、森を抜けた先にある草原で陣を張る――と。

 どうして夕華がそういう考えに至ったのか。兵士数が多くなればなるほど、野営設営する為の広い場所が必要となる。そうなると傾斜のある山で野営をするのは困難と夕華は考え、少し時間はかかるだろうが、夜通し進軍して広い場所で陣を作るだろう。それに、木や傾斜のある山で陣を張るのは、奇襲をされる危険性もある。特に背後を取られて攻め込まれてしまえば、軍が壊滅する可能性もある。
 だからこそ、相手の動きが見える草原で陣を張る――という結論に夕華は至った。その結論を導き出したのは、『現代日本』にいる時に読んだ多くの歴史書や戦術について書いてある本から学んだ知識からだ。当たり前ではあるが実戦経験など全くない夕華。知識として知っていても、それを使う必要が今まで無かったのだから仕方のない事であろう。

「……この地形なら、あの計略が使える?」

 今の自分達が置かれている状況が過去――自分の居た世界の過去ではあるが――と酷似している事に夕華は気付いた。今一度地図を確認してみよう。相手、パルハーミエ国の進軍ルートは山を下り、その先の森を道なりに進んでから開けた場所である草原に陣を張る。
 夕華が歴史書から学んだ状況と比べると、森の先に広い草原ではなく城があったのだが、それは些細な違いだった為、夕華はその事は頭の中で切り捨てた。

「草原まで進軍するまでに“あの手”が使えれば……兵士数が少なくても勝てるんじゃ?」

 そう呟く夕華。実戦経験など無い夕華ではあるが、状況が夕華が知識として知っている状況と同じだった。だが、その策を考えたのは軍師という身分の人間。今の夕華の身分では、その策を話した所で一蹴されてしまうのが現実であろう。今の自分が出来る事を改めて考える夕華。
 負傷した腹部の痛みは激しい動きでは無ければ支障はない。ただ、重い荷物や弓を引く事は難しい。腹部に力を入れると少しだけ痛みが走るからだ。その痛みが弓を引く際に微妙なズレを生じさせる為、標的に弓が届かない可能性がある。

「私の弓は人を狙う為の物じゃないんだけど……」

 弓道者としては複雑な気持ちになる夕華。だが、迷っている暇はないのは確かだった。もうじき――いや、既に戦いの炎は夕華達の目の前に迫ってきているのだから。
 そんな時だった。突然部屋の扉を誰かがノックしたのは。突然の事に夕華は飛び跳ねるぐらい驚いてしまった。完全に思考の海の中に埋没していたのだから仕方のない事だろう。

「ユウカちゃんいる?」

 聞こえてきたのは女性の声。この声の主は夕華も知っていた。

「あ、ジューラさん。どうしました?」

 と、急ぎ足で部屋の入り口へに向かい扉を開ける夕華。扉を開けると目の前には、自分よりも身長が低い、茶色のショートヘア姿の少女が立っていた。彼女の名はジューラ。このヘリーシャム城でメイドを務めていて、メルリーとカーラの三人でよく仕事をしている、ヘリーシャム城名物となっているメイド三人組の一人だ。冷静なメルリー、噂話好きのカーラ。そして、可愛い代表ジューラと兵士達の中で盛り上がっているのは本人達は知らない。
 その三人組の一人であるジューラが部屋にやってきた理由。それは――

「失礼するね。えとね、クライブ兵士長が食堂に集まってほしいって。なんでも、メイド全員集めるようにって話しらしいよ」

「え……」

 突然の事に驚きを隠せない夕華だったが、ジューラには悟られないように最新の注意を払い、あくまで平静を装いながらジューラと食堂へと向かった。




「メイドの皆(みな)、突然の招集をかけてすまない。知っていると思うが、このヘリーシャムの兵士長を務めるクライブだ」

 と、メイド達の前で髭を生やした甲冑姿を着たクライブが確認の意味を含めて自己紹介をする。夕華も何度か城で挨拶はしているが、正面からまともに話した事はない。夕華のクライブの印象は「怖い人だけれど、弱い立場の人間の事を考えている」というものであった。その理由は、何度かクライブより立場の低いメイドからの相談を受けている姿を見ていたからだった。

「メイドの皆を集めた理由だが……現在、パルハーミエ国が我が国へ進軍しているとの情報が入ってきている。その進軍先がここ、セレナ様の故郷でもあるヘリーシャムだ」

 そこで一度区切るクライブ。メイド達の多くは動揺に包まれ、隣同士でこのまま攻めてこられた場合「自分達も武器を手に取らなければいけないのではないか?」と話していた。確かにフェスタリア国の兵士数が少ない為、メイド達も自己防衛の為に何らかの武器を扱えるようにとセレナが指示を出しており、各自弓や剣、槍を護身程度には扱えるようにはなっている。もちろん武器を扱う事が苦手なメイドもいるが……。
 しかし、戦力になるかと言えばならないとクライブは判断していた。それもそのはず。彼女達は戦場に出て、人を斬ったことなど一度も無いのだから。

「そこで、だ」

 ざわついているメイド達を見てクライブは話しを続けようとする。クライブの言葉が聞こえたのか、互いに話していたメイド達も静まり返る。静寂と緊張。今この場を表現するのならばこの二つの言葉が相応しいだろう。メイドはあくまでメイド。クライブが「戦え」と命令すれば自分達よりも立場が上であるクライブの命令に従うしかない。
 例え命を落とす事が分かっていようとも、それがこのヘリーシャム城に仕えるメイドの役目――そんな悲壮感にも似た覚悟をメイドのほとんどがしていた。しかしクライブの口から出た言葉はここに集まったメイド達がしていた物とは違った。

「メイドの皆には今すぐ、ここから避難してもらいたい」

 再びざわつくメイド達。どういう事だ。自分達も死地へ赴けと言われるのだと思っていたのだから、クライブの言葉に驚くのも頷ける。クライブは両手でメイド達を落ち着かせながらその理由を話し始めた。

「メイドの皆も知っている通り、我がフェスタリア国は慢性的な兵力不足だ。最終的には皆も武器を持って戦えるように――と先代の王が考えて皆にある程度の訓練を課していた」

「そ、そうです!私たちだって戦えます!」

 メイドの一人がクライブの言葉に反応し、立ち上がりながらそう言い放った。他のメイド達数名もそれに同調するかのように声を上げた。

(……悩んでいる暇はないよね?)

 それを見た夕華が膝の上に置いていた両手を力強く握りしめてある決断を下していた。

「メイドの皆の気持ちはよく分かっている。だが……皆はセレナ様を支えて欲しい」

「セレナ様を?」

 どういう意味だと再びざわつくメイド達。クライブは溜息を吐いてからメイド達を静まらせた。そしてセレナがどうしてそう思っているのかの説明を始める。

「セレナ様は、国を支えている者達全員が傷ついては欲しくないとの思いが強い。それにだ……」

 一度そこで区切ったクライブは、部屋にいるメイド達を見まわしてから「これは自分の意見ではあるが」と前置きをした後

「戦うのは我々兵士の仕事だ。メイドの皆は主であるセレナ様の生活を支えるのが仕事。私とて女子(おなご)が武器を持って戦い死んでいく様は見たくない」

 そのクライブの言葉で部屋は静まり返った。本当なら反論したかっただろうが、彼女達に幾つもの死地を潜り抜けてきたクライブの言葉に意見する事は出来なかった。一人を除いて――

「あ、あのクライブ兵士長……発言してもよろしいでしょうか?」

 沈黙の中、手を上げ静かに立ち上がって発言したのは夕華だった。全員の視線が夕華に注ぐが、それを気にした様子も見せずに夕華の視線はクライブに向かっていた。この状況下で発言するという事を理解しているのだろうかとクライブは疑問に思いつつ「いいだろう」と夕華の発言を許可する。
 発言を許された夕華は頭を下げて「ありがとうございます」と述べた後、覚悟を決めた表情で発言をする――

「この戦い、勝てる見込みはあるのですか?」

「そんな事か?……勝てる見込みは僅かだがある。籠城が上手くいけば……だが」

 籠城――それは戦力的に劣る軍がよく用いる戦法である。本隊の退却をする為の時間稼ぎに籠城作戦を使用する場合もあるが、今回は本隊ではなく、メイド達などの非武装の人間を逃す為の時間稼ぎの為の作戦をクライブは考えていた。
 だがあくまで時間稼ぎは時間稼ぎ。パルハーミエ軍との圧倒的戦力差では籠城した所で、城壁を突破されるのは目に見えていた。

「……籠城せずに戦う方法があればどうにかなると?」

「?」

 クライブの言葉を聞いた夕華は更に問う。夕華の見立てでは籠城戦になれば、半日ぐらいは時間は稼げるだろう。だが、それ以上は無理だ。城門を突破されればセレナの生まれ育った場所であるこの城の中が戦場と化してしまう。そうなれば、戦いが終わった後に城を修復したとしても、セレナの生まれ育った場所が汚されてしまった事実は残る。
 戦場に出た事がない夕華。しかしながら、現代日本にいた時に様々な兵法書や歴史書を読んできた為か、この戦いで勝てる策が思い浮かんでいた。だがそれはあくまで素人の考えだ。騎士道に反すると一喝されればそれまで。もし、採用されたとしても上手く立ち回れるかどうか不安は残る。

「ユウカ殿?何か策でもあるような言い回しだが……あるのかね。我々が勝てる策が」

「……あります」

 クライブの疑問に、小さく深呼吸をしてから夕華はハッキリと、それでいて力強く「策がある」と言葉に出した。それを聞いたその場にいた全員は夕華の言葉を瞬時に理解できずに沈黙するしかなかった。
 それもそうだろう。たかがメイド。しかもセレナが連れてきたと言っても過言ではない出自不明(セレナには話してあるが……)の夕華が「策がある」と言ってもそう簡単に「はい、そうですか」となるわけがない。

(こんな緊迫している状況で冗談をいうようなメイドではない……なら本当に言っている。だが、メイドである彼女がどうやって策を?)

 夕華の行動に疑問を感じながらクライブは考える。夕華の策を聞いてみるか、それとも今の言葉聞かなかった事にするかを。だが、現在のヘリーシャム城で策を考えられるほどの実力を持った人物はいない。もしいたら、籠城作戦などせずに迎え撃っている。

「ユウカ殿……その策。聞いてもよろしいか?」

 クライブは覚悟を決めた。メイドの少女が考えたという策を聞いて、使える策であるならば使うと。それで敗戦したらその策を使うと決めた自分の責任だ。その時は責任を取る――と。

「は、はい。あ、そ、その前に地図を用意してもらってよろしいでしょうか?大まかな周辺地図でいいので」

「地図?うむ。すぐに用意しよう。では別室でその策について聞かせてもらう。メイドの皆、一度解散してくれ。ユウカ殿は私についてくるように」

「は、はい!」

 やや緊張した表現で返事をする夕華。部屋を出て行こうとするクライブの後を追って部屋から出て行く。その場に残されたメイド達は二人が出て行くのを見て一斉にざわつき始めた。その中でも三人で話し合っているメイドがいた。

「ち、ちょっと、大変だよおメルリー、カーラ。ユウカちゃんが……」

「ジューラ、一度深呼吸しましょう。私達も見ていたから、説明はいらないから」

 と、一本一本細い茶髪を三つ編みにした、実年齢より幼く見えるジェーラを落ち着かせる。それを見ながら少年のように短く切りそろえられた金髪の持ち主であるカーラは

「でも……ユウカがあんなこと言うだなんて思わなかったわよ」

「大丈夫よ、カーラ。私も驚いている所だから」

 何がどう大丈夫なのかと心の中でカーラは思いつつ

「ねえメルリー。ユウカ……大丈夫かな?」

「分からないわ。……でも、大人しいユウカちゃんがあそこまでハッキリと言ったって事は、何かしら手があるって事だと思うわ」

 夕華と一緒にいた時間はまだ短いとはいえ、夕華の人柄については大体理解してきていたメルリー。どこにでもいそうな年下の女の子という印象を受けていた三人。メルリーにとっては、可愛らしい妹ができたと思っていた。そして、先程の夕華が取った行動というのは、彼女達の中にある夕華の印象が崩れるぐらいの破壊力だったに違いない。
 それでも他の二人はどうかは分からないが、先程の事があった程度でメルリーの中で夕華の印象や評価が極端に変わる事はなかった。

「セレナ様に助けられた事に対する恩返しかしらね……」

 誰にも聞こえない程度に呟くメルリー。夕華がこの城に来たのは、数ヵ月前の事。あの時はセレナの客人として丁重に扱っていた。少しだけ話して思ったのは、どこにでもいそうだけれど、少しおっちょこちょいな少女という印象だった。そんな少女が自ら戦場へ行こうとしている。
 その事を考えると、自分はいったい何が出来るのだろうかとメルリーは考える。だが、自分には夕華のように策が思い浮かぶ訳でも、戦場で剣を持って戦える訳でもない。メルリーは無力な自分を呪いながら、クライブと一緒に別室へ向かった夕華が無事に帰ってくる事だけを祈った。



「それでユウカ殿。策と言うのは?」

 先程までいた食堂ではなく、軍議等を開く為の部屋にクライブと夕華、そして三名の兵士が集まっていた。軍議と言うにしては少数すぎるが、これが将軍の居ないヘリーシャム城の現状を表していた。クライブが連れてきた夕華に対し、クライブを除く兵士達は怪訝そうな表情で夕華を見つめていた。

「はい。まず、相手国……パルハーミエ軍の侵攻方向を確認してみましょう。クライブ兵士長」

 と言いながら夕華は机の上に広げられた地図を指差しながら話し始めた。最初に指を指したのはヘリーシャム城より西の方角に馬で半日ほど進んだ場所に位置する小高い山。その山の向こう側がパルハーミエ国となっており、山頂でちょうど国境を越える事になる。その山を指差しながら夕華が話し始める。

「クライブ兵士長、確認をしたいのですが……斥候によれば、パルハーミエ国の軍はこの山をまだ登り始めた所であってますか?」

「ああ。斥候が城につく頃には山頂付近で一度休息をしているだろう。なにせ、下るにしてもあの山は一直線に下りる事は出来ない。道なりに行けば夜も行軍しなければ、この草原で夜営もできないだろう」

 と山の位置を指差してそのまま森を突き抜けて草原の場所を示すクライブ。それを見た夕華は右手を顎に当てて思案する。この状況なら、間違いなく森で攻撃を仕掛けるのが有効な手立てだろう。ただ、準備が間に合うかどうかの問題が残っているが、策を伝えなければ準備に取り掛かる事も出来ないと判断した夕華は口を開く。

「クライブ兵士長。策と言うには余りにも幼稚なのですが……この森を燃やします」

「……は?」

 突然森を燃やすと言いだした夕華の言葉をクライブは理解できずに、素っ頓狂な声を上げてしまう。他の兵士たちもクライブ同様、夕華の言葉を瞬時に理解する事が出来ずに夕華を茫然と見ている。夕華は気付いていない様子で話しを進める。

「この森に少数でいいので伏兵を配置します。敵軍が通った時に火計を使って退路を断ちます」

 パルハーミエ軍が侵攻してくるであろう森を指差す夕華。火計を使用して退路を断つ。その言葉でやっと夕華が何をしようとしているのかを理解したクライブ。しかし問題が一つある。パルハーミエの知将と名高いアーウィン=クラウディアが火を見た時に進んできた道へ戻るのではないかという点だ。
 夕華がそこまで考えているとは思えないクライブ。やはりこの程度か――策があると自信を持って言った夕華に対してクライブはそう評価を下した。だが、次の言葉でクライブはその評価を覆さざるを得なくなる。

「相手は知将と呼ばれているアーウィン将軍です。背後から火が迫ってくる状況になった時、このように判断するはずです。罠を仕掛けた方向は敵が手薄だからだ。戻れば必ず伏兵が待ち構えているはず。それに炎に囲まれれば全滅する恐れもある。罠を回避しつつ被害を最小限に抑えつつ前進するしかない――と。ならば、相手の進軍方向に罠を張って兵力を削り、森を抜けた所にこちらの軍を待ち構えてさせて叩きましょう」

 夕華が一気に話した所で沈黙が部屋を支配する。策の全容を話した本人である夕華は、自分の策はやっぱりダメなのかと思っていた。やはりメイドの身分である自分が言い出すような事じゃなかったのかと、クライブ達に何も言われない状況に内心冷や汗を流していた。

「……確かにアーウィン将軍ならばそう考えそうだ。ユウカ殿、罠の準備はすぐにでもさせよう。ただ問題なのは……」

「森を抜けてきた時に、アーウィン将軍と対峙できる人がこちらにいない――という事ですか?クライブ兵士長」

「う、うむ。その通りだ」

 クライブが言う前にヘリーシャム城の兵士事情を把握しているかのように話す夕華。現状、将軍と呼ばれる人間がいないヘリーシャム城。その兵を束ねるのが兵士長であるクライブとなると、戦場でアーウィンと対峙するとなると実力からしてクライブが不利だ。
 夕華もクライブに失礼ではあるが、将軍となっていないのは実力が伴っていないからだろうと判断していた。もし、実力があるというのなら、フェスタリア国の現状を考えれば将軍になっているはずだからだ。そこまで考えている夕華に対し、クライブの中で不信感が芽生え始めていた。それもそのはずだ。たかがメイドの夕華がそこまで把握しているとは誰が思うだろうか。それに、的確と言える策の考案。
 確かに、王であるセレナの傍で仕えていたのだから情報として知る事もあるだろう。だが、夕華が提案する策が、素人が思い浮かべるような策ではないのだ。まるで相手の動きが分かっているようかの策。

「そこが問題なのです、クライブ兵士長。クライブ兵士長はアーウィン将軍と互角に戦う事は?」

「……無理だな。あのアーウィン将軍は我が国のルーカウス将軍と互角だと言われている。将軍ではない兵士長如きが敵う相手ではない」

 夕華の問いに自嘲気味に答えるクライブ。他の兵士達が「そんな事ない」と口を揃えて言うが、クライブがルーカウスと手合せで勝った事は一度も無い為、アーウィンに勝てる気すら起きないのが現実だった。
 それを聞いた夕華は困っていた。この策はかの国の三国時代で用いられた策の一つと言われていて、炎と罠を抜け出した所に本隊を配置して敵を迎撃したという策だ。その本隊には出来れば将軍クラスの人間がいればこの戦い勝てるはずだと夕華は読んでいる。

(負けるイコール死……セレナの故郷は守りたい)

 夕華自身死への恐怖はある。この世界に来た時に見た光景を思い出したくはないが、負ければそうなる可能性はある。メイド仲間であるみんなを守りたい。自分を信じてくれているセレナの故郷も守りたい。だからこそ、この戦い絶対に負ける訳にはいかない。夕華は覚悟を決めてこの策を話したのだ。知っている事と実践することのむずかしさを理解していながら――だ。

「へえ……なんか面白そうな事を話しているんだな、ユウカちゃんは」

「え?」

 聞き覚えのある声が部屋に響き、部屋にいた全員が入口の方へ視線を送る。そこには赤髪を鶏の頭のように立たせた甲冑姿の男が一人いた。その男の名は――

「る、ルーカウス将軍!?」

「ど、どうしてここに!?」

 クライブ達が驚きの声を上げた。それもそのはずだ。本来ならルーカウスは、首都で任務をしているはずで、ここにいる人間ではないからだ。セレナがヘリーシャム城に来る時は、護衛の為に一緒に来る事もある。

「なに驚いてるんだよお前ら。ああ、援軍なら明日の夜には到着すると思うぜ。準備は全部ブルーノに任せてきたからな」

「な、なるほど。それでお一人でここまで?」

 ルーカウスの説明で首都の状況を理解したクライブの問いにルーカウスは「馬を飛ばしてきたら疲れた」と言いつつ夕華の隣に座った。座ると同時に背もたれに体を預けると

「それで、どうするってんだ。ユウカちゃん?」

「え……あ、最初から説明しますね」

 主語無く問いかけてきたルーカウスに対して夕華は一瞬言葉の意味を理解できなかったが、すぐに自分が話していた策についての事だと気付いて策について話す。夕華から策について聞いたルーカウスは腕を組んだまま目を瞑っていた。
 その様子に不安を覚える夕華。自分の策は将軍であるルーカウスは無理と判断したのかと思っているとルーカウスが口を開いた。

「いい策だと思うぞ。俺が相手の将軍だったとしても、間違いなくその策に引っ掛かっているな。炎に向かって逃げるのは熱いから嫌だし」

「あ、熱いからですか。ルーカウス将軍」

 ルーカウスの発言に苦笑いしか浮かばない夕華とクライブ。しかし、将軍であるルーカウスが認めた事によりこの策が実行に移される可能性が高まった。その事に内ほっとする夕華。ルーカウスは実際問題としてだが、夕華がそこまで考えているとは思っていなかった。傍から見ればどこにでもいそうなか弱いメイドの少女にしか見えない夕華。確かに出自が不明ではあるが、このご時世ではよくある話しだ。

(……どこでこれだけの策を考えられるほど学んだってんだ?)

 一つの疑問。それは夕華はいったいどこでこれだけの策を学んだのか。歴戦の将軍でやっと思い浮かびそうな策を、軍略については素人であるメイドの夕華が閃いた。敵でなくてよかったと思う反面、また夕華に対して疑惑の目が向かうなと心配するルーカウス。
 それは夕華も覚悟はしていた。自分がまら敵国の間諜ではないのかと疑われる事を。だが、今は目の前にある危機をどう乗り越えるかを考える夕華。たとえどんな事を言われようとも今はこの城にいるメイド仲間やセレナの為に――

「よし、クライブ兵士長。今から森へ工作隊を派遣して準備に取り掛かれ。ユウカちゃんの策を実行する」

 いつの間にか指揮を執るルーカウス。それが本来の姿ではあるが、唐突すぎてクライブは瞬時に反応できなかったが姿勢を正して

「はっ!至急兵を派遣し、準備に当たらせます」

 と言って部屋から出てく。自分の考えた策を実行する為に動き出した事に内心驚きを隠せない夕華だったが、すぐに切り替えて改めて自分も戦場へ向かう事への覚悟をする。

(母さん、父さん。先輩。……きっと……ううん。もうそちらには帰れません。今日私は――)

 右手を胸に当てて窓越しに空を見る夕華。この後、夕華が想像している以上の光景を目の当たりにする事になるが、今の彼女はまだそれを知らない――





次回  二人の戦女神
第十八話「戦いの始まりと終わり、そして傷心のメイド」
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