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愛なき道

オリジナル小説「二人の戦女神」と「リリカルなのはシリーズ」の二次創作を中心に活動中

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Side Stage01「Wave Your Hands」  

 今から語られるは、少し前の出来事。時期にすれば六月のこと――









 いつもなら教室で一限歴史の授業時間に、俺は……いや「俺たち」と訂正させてもらおう。教室ではなくグランドにいた。ほとんどのクラスメイトたちは体操着に着替えている。その中で四人ほど野球の練習用のユニフォームを着用してストレッチをしている。
 ん?その中で二人、何故か背中に「KAWASAKI 52」と「MAEDA 1」と刺繍が入ったユニフォームを着ているが、気にしたら負けなのだろう。っておい、そこのMAEDA1。リストバンドが51って、お前の背番号は1じゃないのか?
 俺も大多数のクラスメイトと同じように体操着に着替えてグランドでウォーミングアップの為に走っていた。よく見れば、他のクラスも俺たちと同様にストレッチやら素振りなどをしていたり、先生が円陣の中心で何か話しているクラスも見える。
 先生が円陣の中心にいるクラスは一年生だな。まだ小学生から中学生になったばかりですという雰囲気が残っている。
 全学年が揃っているグランドはいつもは広く感じるのに、今日はやけに狭く感じる。全学年が揃っている理由はもちろんある。それは先週、雨のため中止となった球技大会が本日行われるからだ。

「翔!集合だってよ!」

 雄が大きな声で走っていた俺を呼ぶ。右手を上げて「わかった」と合図を送って、クラスメイトが集合しているところに向かう。
 そうそう、球技大会程度の審判は生徒か先生がやるのが普通だろうが、うちの学校は違う。主審は中学軟式野球大会で公式審判をしている方に依頼して、何人か来てもらったとのことらしい。さすが私立中学校。徹底している。それを聞いた時は流石に呆れたがな。

(主君、テスタロッサ様や高町様は本日任務は無いのですよね?姿が見えないのですが)

(任務は無いが、女子の方は普通に授業だ。女子は先週バスケットボールをして、テスタロッサさん達のクラスが優勝したそうだ)

(そうですか。しかし残念ですね。主君のビーンボールが見れないなんて)

(おい、それは駄目だろ)

 アクセサリーに偽装している長光と念話でふざけた会話をしつつ雄たちと合流して、誰がどの打順でどこを守るかの確認をし、簡単なサインを雄ら野球部メンバー四人が中心に確認したところで開幕の試合が始まったようだ。さて、日頃のストレス解消と行こうか。





    リリカルなのは――Lonely Stars Side Stage――
           01「Wave Your Hands」







 一回戦。俺のクラスは一年生が相手ということもあってか、気の抜けているムードが漂っていた。いや、たかが球技大会だからそれが本来の姿なのだけども、優勝目指すとか言っていた勢いどこいった?このムードの方が打たれても、文句を言われなさそうだから安心と言えば安心か。

「ところがどっかい、そうもいかないのは予定通り」

「『ところがどっこい』な……。しかし、人の心を読むなんて最低の行為だと思わないか?雄……」

 もう何からツッコミを入れればいいのかわからないため正論を述べたが、どうせ雄のノラリクラリとした回答にスルーされるのは目に見えている。

「上杉の表情に出ていたからなぁ。『これなら一回戦負けしてもいいだろ?その後、昼寝でもして帰るか』って表情をな」

 いや、そんな表情はしていないはずだし、俺の背後にいるお前が俺の表情を見ることは不可能だろうが。

「お前の考えなんて俺にはよくわかる。って、そういうことを言いにきたんじゃない。翔、少しいいか?」

 と、グイグイ左腕を引っ張る雄。右手を引っ張らないのは今日の試合で俺が投手を務めることを考慮してのことだろう。だがな、引っ張るのやめい。服が伸びるだろうが。
 何?「お前が大きくなりゃ問題ない」だと?今現在二次成長中だからと言って明日明後日で急に体が大きくなるわけじゃないだろうが。とツッコミを入れるも華麗に無視された。
 ああもうヤダ。帰って本を読みたい。この前、偶然図書館で見つけた『曹操注解 孫子の兵法書』をまだ読んでいないんだぞ。

「お前、本当にそういう戦術論とかの本好きだよな……」

 と俺の左手を引っ張っていた手を離して呆れ他表情を浮かべる雄。好きなものは仕方ないだろう。お前だって、野球の技術に関連する書物は読み漁っているだろ?それと同じことだ。それで、用ってのは?

「ああ。今からの試合なんだが、まず相手一年を見てくれ」

 嫌々言われた通りに一年を見る。まだ体が未発達な上、あまり動きもお世辞にもいいとは言えない連中という印象を受けた。

「それで間違ってはいないんだけどな、あの二人は要注意だぞ」

「あの二人?」

 雄が指をさした一年を見る。一人は素振りをしていた。左打ちか。スイングスピードとフォームの綺麗さは一年でも飛びぬけていると言っていいかもしれない。そしてもう一人、キャッチボールをしているのだが、投げるフォームがとてもしなやかでキャッチボールしているボールもほとんど逸れることなく相手の胸に届いている。なかなかコントロールのいい奴だなと感心した。

「あっちで素振りしてるのは土谷って言ってな、今年の春の大会でベンチ入りした実力者。同じく一年でベンチ入りしたのがキャッチボールしてる、三回戦で初先発完封勝利をした右腕、松原だ。」

「上原と松坂を足して二で割った感じな投球をしそうだな。名前的に」

 土谷の方はなんとなく小物感がするのだが、気を抜いたら打たれそうだな。あのスイングスピードなら真芯で捉えたらフェンス越えもあり得る。

「まあ、実際そんな感じの投球するぞ。今回は投げないけど。それと土谷の方は足に注意な。それと変化球の対応もいいから、気を抜くと本塁打もあるからな」

 流石今回の女房役。しっかりと情報を投手に伝えるあたり本格的だな。それはそれとして、なんで野球でキャッチャーのことを女房って表現するのか知っているか?

「俺が知ってそうに見えるか?」

「いや、聞いて俺が馬鹿だった」

 と言ったら叩かれそうになったのでそれを避けて、左手で雄の鳩尾にストレートを入れるフリをする。当たってもいないのに「は、謀ったな上杉……」と言って右手を俺に伸ばして倒れるフリをする雄。今の演技なら、アカデミー助演男優賞取れるぞ。多分だけど。

「お前の指図は受けん。今日の試合は俺が自分で何投げるか決めるからな」

 と倒れている雄に『一年』にも聞こえる声で告げる。雄はそれを聞いて「地獄に堕ちろ……上杉」と呟いて力尽きるフリをする。もう一度言うがな、左ストレートパンチは当たってないからな?まあいい、これでいいんだろ、雄?二日前に言われた『演技』ってのは。





「なあ、他のクラスを油断させる作戦考えようぜ」

 事の発端は雄のそんな一言からだった。球技大会二日前。クラスでは球技大会の話題で持ち切りだった。誰がどこを守るのか、打順の組み合わせをどうするか、盗塁のサインやらバントのサインなどで盛り上がって、やっと決まったばかりだというのに雄の発言だ。
 そりゃ、みんな喰い付くように雄の振った話題で盛り上がる。お前ら、油断なんて卑怯な手を学校行事で使おうなんて思うなよ。

「お前が言うか?」

「万年不意打ち万歳協会理事長が言うセリフじゃないよな」

「現代に生れし孔明が言っちゃダメだ」

「上杉、お前に言われんでもわかっとる」

 と俺の発言に対して批難轟々。なんでだ。俺はマナーというか勝負事に対してはフェアプレーを心掛けているぞ。それに孔明ってなんだよ。諸葛孔明のことか?三国志随一の策士のような人間ではないぞ俺は。

「いや上杉、冗談を冗談と……いや、なんでもね」

「最後まで言ってやれよ……フジ」

「上杉に対しての文句は……誰にも言えねぇぇぇぇぇぇぇ!」

「言えねぇぇぇぇぇ!!!!」

「お前らまともに考えろよ!」

「……(呆れてものが言えない状況の上杉)」

 そろそろ場の収拾がつかなくなってきた。というかどこで収拾つけりゃいいんだ?

「なあ、上杉と雄が喧嘩するってのはどうだ?」

「それいいな。他のクラスでも上杉と雄は親友って認識だし、その二人が試合中喧嘩したとなれば……」

 いや、それはダメだろ。雄が本気で喧嘩をする……。いくら演技と言っても試合の雰囲気をぶち壊すぞ。

「いいんじゃね?それで俺らは二人の仲裁ができなくてにオタオタすると」

「はい、それ決定!」

「異論無しだろこれは、常識的に考えて……」

「(相手クラスへの)ジャッジメントですの!」

「いや、ジャッジメント意味不明だし……」

「おい、本人の意思は……?」

 言っても無駄だろうなと思いつつ、俺は盛り上がるクラスメイトに尋ねる。帰ってきた言葉は「んなもんあるか」だった。もうどうにでもなれと俺は帰宅し、その日の鍛錬でクロノをバインドで拘束後に二刀流と全力のフレアショットなどで叩きのめしたのだが、それとこれは無関係であると言っておく。ああ、ストレス解消とか、腹いせとかそんなこと一切思っていないからな。





 そしてついに試合が始まったはいいが、マウンドに向かった俺に対して雄がボールを投げつけた。しかも本気で。それを難なく捕球して雄を睨む。雄も負けじと俺を睨んできたが、すぐにキャッチャーマスクを装着する。嫌な空気が周囲を包むが、その状況のまま投球練習に入る。

「お、おい。誰かあいつらの仲裁しろよ」

「そ、そういうのは言い出しっぺがやれよ」

「野球部井端ぁ!こういう時の対処は!?」

「すまん……。ああなった畑山は野球部の誰にも止められないんだ。唯一止めらるのは部外者の上杉だけだったんだ……つまり俺達にはどうしようもできないってことなんだよ!」

「「「な、なんだってー!!??」」」

 おい、そこ。息合いすぎだろ。

「畑山と上杉が喧嘩した原因は、畑に山(畑山)を植え過ぎ(上杉)たのが原因。ナンチテ」

「畑に山は植えられないからな、川相……」

 外野、五月蝿い。これも打ち合わせ通りなんだけど、最後の親父ギャグは寒すぎるぞ川相。でもな、真剣勝負にこういうのはいけないと思う。そりゃ不意打ちも時として必要だけど、たかが球技大会でそこまで徹底する必要が本当にあるか?と思いつつ試合に集中する。
 一回表の一年の攻撃はアッサリと三者三振で終わった。いや、こうも簡単に三振が取れるとは思わなんだ。仮設ベンチに無言で腰掛けるが、雄とは一切会話なし。ここでも演技をしないといけないのは苦痛なんだが、仕方のない事だと割り切る。さてこっちの攻撃だ。
 先頭バッターのショートを守る野球部井端がセンター前ヒットで出塁し、次のバッター川相の初球にバンドエンドランをかます。分かりやすく説明すると、井端が相手投手が投げた瞬間にスタートを切り、川相がセーフティー気味に三塁線にバンドを決めたわけだ。
 無死一、三塁で先制チャンス。ここでバッターは俺。四番はやはりあいつしかいないだろ。

「上杉、簡単にアウトになっていいぞ。俺が決めるから、お前は投球だけ考えていやがれ」

 とネクストバッターサークルで軽くストレッチをしている、今日は口調の悪い野球部のエース兼主砲の雄。お前、日頃の鬱憤を口の悪さで晴らしていないか?
 まあ、後でそのことについては追及するとして、今は打席に集中するか。と言っても、軽く当てる程度に抑えておかないと、投げてる一年がトラウマになっても困る。
 右バッターボックスに立ち、とある大リーガーのマネをして相手ピッチャーに向かってバットを垂直に立て、肩口をまくるような仕草をして、その選手の2004年時のフォームを構える。バットの寝かす角度が違うだけで、足幅などは全部一緒のはず。雄の家のビデオで見ただけだからよくわからんがな。
 はて、相手投手が何故か凄まじい形相で俺を睨んでいるけども、俺何か悪いことしたか?そんなことを考えているうちに俺に対して一球目。打ちに行こうとしてしゃがむ。投じられたボールは俺の頭上を通り、キャッチャーミットに収まった。
 見ていた生徒たちからどよめきが起きた。一歩間違ってれば保健室行きだ。俺はコントロールの悪い奴と思いつつ再び構える。投手の足が上がり、投じられたボールは先ほどと同じコース。
 つまり再び俺の頭を目がけてボールが迫ってきた。俺はそれを難なく避けて小さく溜息をつく。それと同時に、ワザと俺に当てようとしていると判断する。理由は不明だ。

「ピッチャー、当てるなら顔面にしてやれ!」

「地獄に堕としてやれ!」

「今までの俺らの恨みを込めてだぞ!!!」

 おい観戦組何言っている。わざとファール打ってお前の顔面に当ててやろうかと思ったが、そんな高等技術は一切持ち合わせていないので断念する。
 一度打席を外して、見ている生徒たちにわからないようにベンチの前に設置されているネクストバッターサークルで待機している雄を見る。俺は目で「こいつ打ちのめしていい?」と訴える事は忘れない。
 きちんと通じているかどうかは不明だが、雄は相手投手の方を一度見てから小さく頷いた。「本塁打以外打つなよ」と目が訴えていたが無視していいだろう。そう簡単に本塁打なんて打てるもんじゃない。
 三度、俺は構える。相手一年が投げたボールは脇腹付近。このコースなら打てると判断して左足を三塁側に踏み込んでボールを捉える。快音を残し、ボールは高々とレフト方向へ飛ぶ。それと同時に歓声が上がる。
 手応えはなかったので凡打になるだろうが、あれなら犠牲フライには十分だろうと判断して、俺はゆっくりと一塁に走る。一塁ベースを踏んで二塁方向を見る。打球はまだ落ちてきていないため、一塁ランナーの川相が二塁ベース手前で打球が落ちるのを待っている。
 やっと打球が落ちてきたが、レフトが追うのを諦めた。フェンスを越えたと判断した三塁塁審が腕を大きく回す。ボールが落ちたのは仮設フェンスの向こう側。つまり本塁打という事だ。
 一瞬の静寂後、盛大な歓声が上がった。ベースを一周してホームベースを踏んで、先にホームインしていた走者とハイタッチをしてベンチに戻る。その際、マウンドの投手の表情をチラリと見たら「何が起きた?」と言いたげな茫然とした表情だった。すまん、一年。俺もあれが本塁打になるとは思っていなかったんだ。

「ナイスバッティング上杉!」

「あんな悪球をホームランとか、お前はどっかの漫画の悪急打ち野郎か!?」

 とベンチに戻るなり、クラスの連中に囲まれて叩かれた。いや、サヨナラヒットとか打ったわけじゃないのにこの盛り上がりは球技大会だからか?打った俺も嬉しいが、叩くのはやめろ。痛いから。おい、今後ろから思いっきり殴ったの誰だ!?

「……」

 唯一、その輪の中に入らずに集中して打席に向かう雄の姿が見えた。あの目は本気だ。間違いなくホームランを狙ってる目だ。雄の家で何度もある選手の打席のDVDで見た(正確的には「強制的に見させられた」)表情と酷似していた。

(あいつがあの表情するってことは……)

【かの『孤高の侍』ですね】

 長光。突然念話で話しかけてくるな。いくら暇とはいえ、少しは大人しくしようとは思わないのか?

【思いません!】

【少し……頭冷やすか?こら】

 と念話で会話しつつ、雄の打席に注目する。右打席に悠然と立つ雄。バットを顔の前に上げ、一瞬バットを見てから構えに入る。左打席じゃないということは本気で狙ってるよあいつ。しかし気になるのは一年の右頬が引き攣っていることだ。まあ、それは気のせいにしておいて、雄の真剣な表情を見て一言俺は呟いた。

「球技大会で本気になる野球部員がいるらしい」

「みたいですねぇ」

 おい、今ここにはいないはずの女子の声が聞こえたぞ。少し間があってから第一球目。先ほどの俺に対して投じた一球目と同じように、雄の頭上を通り越してキャッチャーミットに収まった。なあ、そろそろあいつを殴りに行っても構わないだろう?

「さすがに三年が一年に手を出すのはどうかと思いますよ?」

「……授業をサボって球技大会の取材に来るような人間に言われる筋合いは無い」

 認めたくないが、俺の左隣にはメモを片手に必死にペンを走らせている天咲さんがいた。貴女、今日は普通に授業ですよね?

「それが驚くことに、新聞部の私は特例としてこちらの取材を認めてもらえたのです!」

 とエッヘンと胸を張る天咲さん。無い胸を強調されても俺としても対応に困るのだが。

「そこですか!?」

 と涙目で何か訴えてくる天咲さん。俺はそれを華麗に無視をして雄の打席を見守る。再びバットを顔の前に上げてから構えに入る。投手が振りかぶって投げた。今度はまともに勝負したようだったが、ボールは快音を残してセンターへと飛んで行った。
 打った瞬間誰もがホームランとわかる打球とはこのことなんだなと思った打球だった。センターを守る一年は最初から打球を追おうとはしなかった。

「ホームランですね」

「ホームランだな」

 少し間の抜けたやりとり。その間も打球はグングンと伸びて行き、最終的に地面に落ちたのは雄が二塁ベースを踏んだ時だった。これで4-0。圧倒的ではないか、 我が軍は。これなら後は適当に投げときゃいいじゃないか。

「そう言ってると足元すくわれますよ?」

「……適度に手を抜くだけですよ」

 さてと、軽くキャッチボールでもしておくか。この回は俺に打席は回ってくることは無いだろうからな。




 そろそろ、ショウ達の一試合目が終わるころかな?と思いつつ私は授業中にコッソリと窓の外を見る。グランドで男子達が球技大会の種目である野球をしている。ちょうど見たらレフトの仮設フェンスを打球が越えた。つまりホームラン。誰が打ったかはここからだと内野が死角になっていて見えない。
 確か彩が新聞部の特権と言って、取材に行ってるんだっけ。他の子が「彩だけズルイ」と言ってたのを記憶してる。確か野球部とサッカー部にこっちで人気の男子がいるとかなんとか。誰のことだろう。後でアリサたちに聞いてみよう。
 あ、授業終わった。しまった。後半授業全く聞いてなかったよ。マルチタスク使えばよかった。ど、どうしよう。

「フェイトちゃんお疲れ~……ってどうしたの?」

「あ、なのは」

 そこに救い主――なのは――が声をかけてきた。事情を説明して今の時間のノート写させてもらおう。じゃないと、今度のテストで点数低かったら、本当に卒業できなくなる――




 一回戦全試合が終了した。俺のクラスの試合結果は十五対〇で三回コールド勝ち。俺は投手としては三回無安打無得点。打者としては四打数四安打四打点一本塁打のオマケ付き。とりあえずこれで三年の面子は保てたか?一年はガックリと項垂れているが、雄と俺の頭を狙って投げたことに対する報復がこの点数だと思ってくれ。

「上杉、ナイスピッチング!」

「上杉てめぇ!このやろ!」

「植え過ぎた上杉が、見事に開花した。ナンチテ」

「……上杉、いい投球だったよ」

「あ、あれイバッち?」

 とマウンド上で疲れた声の井端が最後に声をかけてきた所で俺達はベンチに戻り、勝ったことを素直に喜んだ。
 その後すぐに二回戦が始まった。うちのクラスは他のチームに比べて、決勝まで行くには一試合多く試合をしなければならない。その理由が三学年合わせて九クラスあるからで、俺のクラスは一回戦シードの二年二組とベスト四を争うことになる。「不公平なトーナメント表だよな」とは大会前日の雄が言った台詞。

「それで、上杉。肩は?」

「まだまだいける」

 肩の心配をしてきた井端に、右腕を軽く回してみせる。実際一回戦では本気で投げたのは三球ぐらいしかなかったのでそれほど疲れはない。二回戦で九イニング投げろと言われれば投げられる自信はある。

「上杉が野球部にいたら全国制覇も夢じゃないんだけどなぁ」

「今更入っても迷惑だろう?」

 もう最後の大会が近いって言うのに、三年の俺が入っても下級生達が反発するに決まっている。それに、三年間努力してきた人間と突然入ってきてレギュラーになってしまうかもしれない人間との関係も問題になってくる。

「あー確かにそうだな。嫉む奴は少なからずいそうだしな」

「だろ?草葉の陰で応援してやるよ」

「上杉、それ死んでるからな!?」

 と、笑いを誘いつつ次の試合に挑む。




 二回戦の結果は九対一で俺のクラスの勝ち。一点取られたのは、レフトが簡単なフライを落としてランニングホームランにした為だ。野球はやったことないと言っていたから仕方ない。それ以外はヒットも許さず、五回を投げきった。
 これでベスト四が決まった。俺はトーナメント表が貼ってある掲示板で対戦相手を確認していた。まず三年は、我がクラスと一組が勝ち残って、二年は……全滅……だと!?

「どういうことだ?」

「それについては私、天咲彩が説明いたしましょう!」

 と何時の間にか隣にいた似非新聞記者の天咲さんがいつもの手帳片手に嬉しそうに立っていた。さて、昼飯食べに行くか。

「え、ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ!説明聞いてからでも遅くは無いですよ!?」

 と服を掴んで引っ張る似非新聞記者、天咲さん。ええい、今日はよく服引っ張られる日だな!おい。それで、どういう事ですか似非新聞記者さん?
 ……おい、そこ。諦めるの速いなとか言うな。ここで変に掛け合いをしたって無駄な労力になるのは目に見えているんだ。それならさっさと理由を聞いて去るのがベストと思わないか?

「『似非』じゃないですってヴァ!……コホン。二年生が全滅なのは、二年生の野球部員が見事に分散されていて、チーム全体のレベルが低かったからで、勝ち残った一年二組は野球部員が多く、七人もいますからねぇ」

「今年の一年は豊作だな」

 これで、現主力の三年生が抜けてもしばらくは安泰じゃないか?怪我とかしなければの話だが。しかし、三年同士の決勝になりそうな雰囲気だが、大波乱はあり得るのか?

「十二分にあり得ますよ。上杉さんの二組は順当に勝てるとしても、一組は野球部員は二人しかいませんから。投手のサッカー部の石長くんの活躍で勝ち上がってきたと言っても過言ではないぐらいですから、苦しいかと思いますよ?」

 冷静な分析どうも。相手の心配より、自分の心配でもしておくか。いい加減、演技とは言え雄と仲直りして普通に球技大会を楽しみたいからな。ではまた後で会いましょうか。

「ああ、そうそう」

「?」

 昼食を食べに行こうとした俺を引き留める天咲さん。他に何か用でも?

「ええ、伝言が一つだけありまして。『昼休み、屋上で待ってるわよ!』だそうですよ?」

 モテますねぇと言ってニヤニヤと笑っている天咲さんは放置して、俺はクラスへ向かった。屋上に行くのは止めておこう。何か嫌な予感しかしない。

「ああ、それと『来なかった場合、全力で叩きのめすなの』って高町さんが怖い表情で言ってましたよ……。それと、アリサさんも『来なかったらブッ血KILL』と。……あの目はホンキデシタヨ?」

 とその時の様子を思い出したのか、恐怖のあまりブルブル震える天咲さん。おい、俺に逃げ道は無いぞ、この状況。雄がいたら確実に「どこの無理ゲーだよ」とか言って呆れているに違いない。仕方ない、屋上に行くとするか。


 屋上についた俺を待っていたのは、男子校舎のフェンスの向こう側の女子校舎屋上で、いつものメンバーで食事をしている女性陣だった。

「あ、上杉くんだ」

「お、やっと来たん。遅かったんちゃうん?」

 高町さんが最初に気付き、八神さんがニヤニヤとしながら声をかけてきた。俺は小さく溜息を吐き、遅れた理由について説明して、購買で買ってきたパンとお茶(ペットボトル五百ml)を袋から出して食べる。パサパサしていたが、購買のパンだからと諦める。今回は外れクジを引いたな。

「それで、上杉。あんたの唯一の友達、畑山と喧嘩したってどういうことよ!」

 と、食事中なのに大きな声で突っかかってくるバニングス嬢。静かに食事が出来ないのか?その前に、唯一の友人言うな。

「え、そうなのショウ?」

 初耳だよと狼狽えるテスタロッサさん。た、たかが雄と俺の喧嘩如きで狼狽えるのは執務官としてどうかと思う。取りあえず、本当のようで本当じゃないと答えておく。

「どういうこっちゃ?自分、言ってる意味わかっとるか?」

 言い方間違えたかもしれないなと思っていると、早速八神さんからツッコミが入った。流石は関西女。ツッコミのキレは雄以上だな。取りあえず我がクラスの作戦を説明をしたら、全員が呆れた表情になっていた。うむ、それが普通の反応だよな。良かった良かった。クラスメイトを見ていると俺が異常なのかと思ってしまっていたからな。

「それで、上杉くんのクラスは勝ち残ってるの?」

「それはもちろんですよ高町さん。次は準決勝になりますね。どういう試合になるかは分かりませんが、そう簡単には負けませんよ」

 大敗するようなことは絶対ない。それだけは断言できる。我がクラスの守備は鉄壁だからな。ヒット性の当たりでもアウトに出来る二遊間がいるから安心して投げられる。

「そんなに自信あるんだ。試合観に行きたいね。ね、アリサちゃん?」

「そうね。午後は授業は無いから観に行っても怒られないわね」

 ちょっと待て。授業無いってどういうことだよ。女子がバスケ大会で盛り上がっていた先週の金曜日だったか?は俺たち男子は普通に授業していたんだが。勿論、授業を抜け出して女子のバスケ大会の様子を見に行った連中も多数いたがな。そいつらのその後については語る必要もないだろう。

「それはねショウ。午後からは三者面談があるんだ。進路について色々と話すって先生が言ってたよ」

 とはテスタロッサさん談。そういうことなら納得だ。話を聞いていると今いるメンバーは、既に三者面談を終えているらしく午後はフリーだそうだ。都合良すぎだろ作者……。と変な言葉が思い浮かんだ。少し疲れているのかもしれない。これも全部クラスの連中のせいだ。あとで雄をぶん殴ってやる。

「じゃあ、午後は上杉くんの応援だね」

「あ、それいいね。すずかちゃんナイスアイディア!」

「私も別に構わないわ。上杉が打たれるところキチンと観ておきたいからね」

「ちょっと、アリサ。それは言わないであげようよ」

「いや、いいんとちゃうん?上杉ならきっと劇的な場面で打たれてくれるに決まっとるし」

 と、勝手にワイワイと話を進める女子陣。まあ勝手に観るのはいいけど、先生に怒られない程度にな?そうこう話しているうちに昼休みが終わり、俺は再びグラウンドに戻った。



 午後一時三十分。ショウのクラスの決勝進出をかけた準決勝開始直前。相手は一年二組。
 「一年生だからと言って油断はできない」ってショウが昼休みに言ってたけど、試合前の動き見てる限りだと、数人だけ動きが良い程度であとは戦力にならないんじゃないかな。このチームでよく二年生に勝てたね。

「相手には野球部員いなくて、全員野球素人だったから勝てたって話よ」

「そうなんだ」

 私の疑問に答えるようにアリサが答えてくれた。そっか、そういうことなら納得かな。

「それで、上杉と畑山のケンカはいつ見れるんや?」

「はやてちゃん、趣旨変わってるよ?」

 すすがの言う通りだよ、はやて。私達ケンカを見に来たわけじゃないよ?試合を見に来たんだから。あ、ショウがマウンドに向かって歩いてる。って、背後からボールが!?

「「あぶな……い?」」

 私となのはは危ないと言いかけてショウの行動を見て固まった。ショウは後ろから来たボールを一度も見もせずに難なくキャッチしてしまったからだ。グラウンドがはその光景を見た人たちのどよめく声に包まれた。
 私たちは声を上げることも出来ずに、ただ呆然とショウが投球練習をする姿を見ていた。

「な、何やってるのよ!あいつは!!」

「あ、アリサちゃん落ち着いて、ね!?」

 と、いち早く復帰したアリサが今にもマウンドに走って行きそうなのを必死に止めるすずか。いつも通りと言えばいつも通りのやりとりに、私もやっと現実に戻ることが出来た。すずかと一緒にアリサを宥めつつ、試合開始を待った。
 初回、一年生の攻撃はあっさりと三者三球三振に終わったけど、プレイボールから五分以内に攻撃終了って早過ぎるよ。

「ねえフェイトちゃん。上杉くんって運動部に入ってないんだよね?」

「うん、そうだよなのは。でも投げてる姿見ると、野球部にいてもおかしくはないと思うんだけど……」

「せやね。あれだけ投げられれば十分エースやで」

 と呆れたような口調のはやて。ショウを知っている人で、今の投球を見たら誰でもそうなるよね。実際アリサなんて爆発寸前で、すずかがさっきからずっと宥めてるから。でも、相手は一年生だから三年生のショウなら、簡単に抑えることは出来るんじゃないかな?

「フェイト……あんた本気でそう思っているなら改めたほうがいいわよ?一年の一番から三番は全員野球部員だから。しかもレギュラー候補らしいわよ」

 え、そうなの?その子たちをアッサリと三振に仕留めるってショウ凄いね。そういえば一回戦は確かノーヒットノーランだっけ。三回参考記録だけど。

「ええ、そうですね。しかも許した得点が二回戦の平凡なフライをレフトが落として、ボールを追っている間に帰ってきた打者走者の一点だけですからね。いやはや高校で野球部に入部したら、大物ルーキーとして報道されること間違いなしですよ!」

 と、突如現れた彩。いつも思うのだけど、どうやって私たちに気づかれないで会話に入ってるのかな。謎だよ。

「彩ちゃん。取材はどう?」

「あややや、これこれは高町さん。ご機嫌麗しゅうに。取材の方はバッチリですよ!」

 と右手の親指を立ててグッ!とこちらにアピールする彩。相変わらず元気だよね、彩は。時々暴走する時あるけどね。あ、いつの間にかショウの打順になってる。ランナーは二塁だけで、得点は入っていない。ということはワンアウト二塁だね。

「お、噂をすれば上杉の打順じゃない。ちょっと上杉!ここで打たなかったら後でシバくわよ!」

「ちょ、ちょっとアリサ。声大きいから」

「いいじゃないフェイト。それに大きな声で言わなきゃあいつまで聞こえないでしょ?」

 それはそうなんだけど、こんな所で大きな声出したらショウに迷惑かかるからね、ね?

「あ、あのアリサさんまで上杉の応援を……だと……?」

「巫山戯るな!!あいつはどこぞのギャルゲーの主人公だ!!ダ・○ーポか!?SH○○FLEか!?それともe○か!?」

「節哉。それギャルゲーちゃう。エロゲーや」

「か、か……神は死んだ……バタリ」

「離せ黒子!俺は今からあいつの幻想を殺しに行くんだ!!」

「七分割してもいいよな?というか十七分割にしてくる」

「誰か不吉を届ける暗殺者、黒猫呼んで来い!」

「黒猫より、スイス銀行に入金したほうが速い!」

 ……ほら。アリサのせいで男子達がショウを物凄い表情で睨んで叫んでる。ってはやて、お願いだからアリサに「もっと応援せなあかんで」とか助言しようとしないで。これ以上状況悪化するの目に見えてるよね!?

「ピッチャー!上杉の頭に当てろ!俺が許す!」

「頭に当てるだけじゃつまらん!顔面が凹むぐらいおもいっきり投げろ!」

「もうボールじゃ物足りん!矢でもナイフでも何でもいい!あいつの生命活動を停止させろ!!」

 ちょっと待って。それって一歩間違えなくてもショウの命が危険だよね!?

「なんだか修羅場になっちゃったね……」

「修羅場というより地獄絵図やない?」

「二人して何言ってるのよ。ただのヤジじゃない」

 と苦笑いを浮かべるすずかとはやてに、こんな状況を作りだしたアリサは何おかしなことを言ってるのよと言いたげにため息をついた。アリサ、自分が何をしたか分かってるよね……?なのは、どうにかできないかな?

「ごめんフェイトちゃん。私にはどうにもできないよ」

「うん、わかってる。わかってるんだなのは……」

 もう、私たちの力じゃこの空気を変えることができないのは最初っからわかってるんだ。でもね、グラウンドの殺伐とした空気は変えたい。だって、普通に試合みたいから。
 そんなことを考えていると金属音が響いた。それと同時に歓声が上がる。え、何が起きたの?慌てて試合の方を見るとショウが一塁へ走ってる。でも、その走りは全力ではなくセンターの方を様子見ながら走っていた。 
 ショウの視線を追いかけるようにしてセンター方向を見ると、センターを守る選手が高い軌道で弧を描いているボールを追っていた。あ、ボールを追うの諦めて項垂れちゃった。
 それから数秒してからショウの打球はフェンスを越えてスタンドに入った。一瞬の静寂後に歓声が上がる。ホームラン打ったショウはただ淡々と塁を回ってホームインした。

「初球打ちでホームランって、あいつは何者よ」

「ただの人かと」

「せやな、多田野(数)人やな」

 と、かなり間の抜けたやりとりのアリサ、彩、はやての三人。でもはやて。少し「ただの人」の発音が人名ぽかったのは私の気のせいかな?
 ベンチに戻ったショウがクラスメイトから手荒な歓迎を受けてる。あ、背中をおもいっきり蹴られた。い、痛そうなんだけど大丈夫かな?

「大丈夫だと思うよフェイトちゃん。きちんと急所外してあったし、威力も余り無いように見えたから」

「よく見てるね、なのは」

 さすが管理局教導隊に所属しているだけのことはある。でも、そういう問題じゃないと思うのは私だけかな?あ、次は畑山くんの打席だ。ユニフォーム着てるんだ。MAEDA1って書いてあるようだけど、畑山くんで前田っておかしいよね?それより、あの打席に立つ前にする仕草、どこかで見た事あるような?

「あら、次は畑山じゃない。……ってなんでイチローのマネしてるのよ!?」

「あややや、アリサさんは御存知じゃないのですか?」

 「なにを?」と彩を睨むアリサ。気持ちはわからないでもないけど、睨むのはさすがに彩がかわいそうだよアリサ。彩も平気な顔してないで、少しは気にした方がいいと思うよ。でも、おかげであの独特の仕草を思い出せたよ。テレビでよく取り上げられてるからね。

「いや、畑山くんなのですけど、左打席の時はイチロー選手で、右打席時は前田智徳選手のフォームで打席に立ってるんですよ」

「それでよく打てるわね。打撃フォームって誰かのマネすれば打てるもんじゃないでしょう?」

「そうなんだ?」

 知らなかった様子のなのは。なのはってどちらかというと野球よりサッカーだから、詳しく知らないもんね。

「そうなんだよ、なのはちゃん。本来だったら自分のフォームを固めるのに何年もかかるって言われてるし、他人のフォームをマネしても簡単に打てるようにはならないんだよ」

 となのはに説明するすずか。確かに打てる人のフォームをマネしたからってすぐに打てるようになったら、みんなプロになれちゃうからね。
 でも、畑山くんのフォームは本人(イチロー選手)に凄く似てて、後ろから見たら本人かと思っちゃうぐらいのレベル。確か漫画だったか何かで、プロ選手のフォームを真似する小さな高校野球児が甲子園に出場する野球の話があったような……。まるでその話のような選手だね、畑山くんは。

「ああ、そういえば上杉さんも一回戦からずっと2004年時のイチロー選手のフォームを真似して打席に立ってますよ。結果はホームラン三本、打率七割とだけ言っておきます」

「「「「打率七割(やて)!?」」」」

 ホームラン三本も打ってるだけでも凄いのに、打率七割って普通ありえないよね。だって、プロでも三割打てるか打てないかなのに、いくら中学生の球技大会レベルだからってその打率はおかしい。

「畑山さんも七割以上ですよ?他にも数人五割以上打ってる方々がおりますけど?」

「それでよく、二回戦九点しか取れなかったわね」

「あはは……確かに」

 そう話している間に畑山くんがショウに続いてライトへホームランを打ち、ショウのクラスのベンチは大盛り上がり。結局、その回は一挙五点を奪う猛攻を見せて攻撃を終えた。
 それ以降はショウが相手打線を上手く抑えるも、打線が二回以降上手く繋がらず得点することが出来なかった。
 特に三回裏の攻撃でショウが出塁すると、初球に二塁へ盗塁を成功させる。これでノーアウト二塁。畑山くんがヒットで繋いで一、三塁になるけど、その後が続かないでスリーアウトチェンジ。
 見ていた生徒から盛大なため息が漏れた。けど、ショウはあまり気にした様子を見せなかったけど、畑山くんに何か一言伝えるとさっさとマウンドへと行ってしまった。残された畑山くんは怒った様子でショウに何か言い返していた。ああ、これがショウが昼休みに言っていた演技なんだね。

「なんだか、本当に喧嘩してるようで見てるこっちがヒヤヒヤするね」

 と、なのは。確かにそうだ。演技ってわかっていても見ている私たちとしてはヒヤヒヤどころか、今にも殴り合いの喧嘩になるんじゃないかと心配になってくる。そのぐらいショウと畑山くんの取り巻く空気は悪い。
 そうこうしている間に試合は七対〇でショウのクラスの勝利で終えた。これで決勝進出決定。あと一試合あると思うと、結構長いよね。時間もそうだけど、色々な意味で。

「これで決勝進出ね」

「同時進行で行われてる、もう一試合はどうなってるんだろうね」

 ショウのクラスの決勝で戦う相手はどこなんだろう。野球部員の多い一年生かな?

「彩、もう一試合の結果はどうやった?」

「はやてさん、ちょっと待ってください。今確認してますので。……ええ。うん、うん。……わかりました。そち

らの取材内容はもうまとめていいですよ。決勝は私だけで十分ですし……。ええ、お願いします。ふう」
 と、携帯電話をしまう彩。どうやらもう一試合の方は別の新聞部の部員に取材を任せていたようだ。一息ついて私たちの方を見てから口を開いた。

「決勝は三年生同士の対決になりましたよ。これは楽しみですね!」

 と笑顔の彩。どんな試合になるかわからないけど、みんな試合を楽しんでほしいなと私が思っていると

「ねえ、次の試合も見る?」

 と、突然アリサが確認を取るように聞いてきた。時間はまだ大丈夫だ。SHLももう終わってるし、今日は管理局の方は仕事はない。

「私は見てもいいかな」

「私もいいよ」

「わたしも」

「私もや」

 すずか、私、なのは、はやての順に答えると、アリサは腕を組んで少し考えた後

「なら前の方で観ない?その方が臨場感あっていいと思うわ」




 球技大会、男子の部決勝開始直後。俺のクラスは、無死満塁と今大会初のピンチに襲われていた。マウンドには内野を守る四人と俺、そしてキャッチャーの雄が集まっていた。

「すまん、上杉。俺があの時にエラーしたばかりに」

「もう試合終わりにして皆で尾張に行こうか……」

「川相、もう帰ってくんな」

 と落ち込んでいるのにコントを始める川相井端の二遊間。それだけ元気あるならまだ大丈夫だな。

「井端、川相。気にするな、まだ点取られたわけじゃない」

 と平凡なショートゴロを珍しくトンネルした井端を慰める。最初のバッターを井端のエラーで出塁を許し、次のバッターは今度はセカンドの川相が打球をファンブルし、ノーアウト一二塁。次のバッターがショート奥深くへの内野安打で満塁となり現在に至るわけだ。

「……そろそろエンジン掛けてくれないと困るんだが、上杉?」

「「「……はい?」」」

 と、不機嫌そうにこの試合初めて口を開いた雄の発言に、その場の全員が俺の方を見る。こっち見んな。まあ、初回だからということで全力で投げていないのは確かだ。でもな、それだけじゃないんだ雄。

「なら、いいかげん演技やめさせてくれ、雄。そっちのほうで精神的に疲れたぞ、俺は……」

「確かにな。決勝戦ぐらい、いつも通りやろうぜ。」

 「いいだろ?」と俺と雄が井端達に確認するとガクガク震えながら頷いていた。後で井端に聞いたところ「上杉の表情は笑ってるのに、目が笑ってなくて、頷かなかったら殺されると思った」と震えた声で答えてくれた。酷い言われようである。

「んじゃ、いつも通りと行くか、上杉!」

「頼むぜ、雄」

 と打ち合わせらしい打ち合わせをしないまま守備に戻る。雄が内野陣に定位置守備より前進するよう促して座る。相手は四番なんだがな。左バッターボックスで堂々と構えているが、四番を担うほどではないなと思う。

「さて、聖祥大付属中学野球部の四番候補の俺、筑井が素人のボールなんぞ簡単に場外に消してやるよ」

「なんだ、たかが四番候補か。なら負ける道理はないな」

 とバットを俺に向けていってきたので、そう言い返すとすごい形相で筑井が睨んできた。悪いが、雄から四番を奪ってから言え。そうこう言っているうちにアッサリとツーストライクと追い込んだ。追い込まれてるのに自称四番候補筑井はニヤリと笑い

「おい、お前に足りないものがわかったぞ」

 ほう。わかったなら次の投球で仕留めてみろ。セットポジションからの三球目。インコース低めの「お前に足りない物、それは!情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ!そして何よりもぉ!ストレートの速さが足りない!!」……は?
 何を言ったんだと俺が思った瞬間、打球は快音を残してライト方向へ飛んでいた。ライトを守るサッカー部の仲田が俊足を飛ばして打球を追うが、打球はそのままライトスタンドファールゾーンへと入って行った。

「……ちっ。スイングが少し早かったか」

 と言いつつも悔しそうな表情を見せない筑井。その表情は「いつでもお前のボールなんぞスタンドに叩きこめるんだよ」と言っていた。それはそれでいいとしてだ、何だあの早口。あいつはどこの早口言葉選手権優勝者だ?キャッチャーをやっている雄も呆然としている。まあ、あの早口を聞けば誰だって呆然とするだろうな。
 ファールだったので仕切り直しになるのだが、流石にあそこまで完璧に捉えられるとは思ってなかったな。ただ、雄ならバックスクリーンに運んでいたがな。さて、雄。次は出来れば「あれ」を投げたいんだが……と、わかってるじゃないか。流石相棒。雄からのサインに頷き再びセットポジションから投じる。

「馬鹿め!先ほども言っただろ!貴様に足りない物、それは!情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ!そして何よりもぉ!ストレートの速さが足りな……い!?」

「ストライクバッターアウト!」

 空振り。そして審判の三振コール。ボールは雄のミットの中に入っていた。俺が投げたのは、去年の今頃に雄から遊び半分で教わった高速スライダー。ストレートとほぼ同じ速さでスライドする変化球だ。筑井が打ちに行った時はまだストレートと同じ軌道だったはずだ。スイングしている最中に筑井の胸元へ変化したのだから、さぞ驚いたことだろう。
 というか、最後まで早口言葉で驚くなんて思わなかった。野球より声優とかその早口言葉を生かせる職業目指した方がいいと思うのは俺だけか?

「くっ、スライダーだと!?」

「『高速』を忘れるなよ。お前、もう少し冷静になってボール見ればいいバッターになれるんだけどな……」

 ん?なにか雄と筑井が話しているが、会場の歓声で聞こえなかった。次の五番バッターをカーブでセカンドゴロゲッツーに打ち取り、何とかこの回を無失点で切り抜けた。



「危なかったね」

 初回から無死満塁という大ピンチにもショウは冷静に投げていたけど、さっきの試合とは違って畑山くんのサインに従って投げていたのに驚いた。決勝も喧嘩していると思わせてくると思ったから。攻守交替になった時に畑山くんとハイタッチもしていたしね。

「そうね。でも、あの筑井だっけ?あいつの早口も凄かったわね。ボールが来る前には言いたいこと言って、打つんだもの」

「凄いよねぇ」

 と、ショウから大ファールを打った筑井くんの早口言葉に未だ驚いているアリサとすずか。確かにあれは凄かった。私なら確実に舌を噛んでる。

「あれは凄いよね。というか、こんな大勢の前であんなこと普通言えないよ」

「せやな。でもなのはちゃんなら、言えそうやけどな」

「そうかな?」

 と首を傾げて考えるなのは。その仕草に少しドキッとしてしまったのは内緒。
 試合の方は投手戦となり、両チームとも譲らずに〇―〇のまま九回裏。ショウのクラスの攻撃。打順は一番の井端君からの好打順。初球、三塁側にセーフティーバントを決めて出塁すると、すかさず二番の川相くんが「井端はいいバッター。ナンチテ」とか言いつつ一塁線に絶妙なバントを決めて、ワンアウト二塁。ここでバッターはショウ。

「あれ?キャッチャー立っちゃったよ?」

「敬遠やね」

 どうやら、相手のチームはショウと対戦することを避けるみたい。でも次は野球部の畑山くんだけどいいのかな。と思っている間にフォアボールとなり、ワンナウト一、二塁。キャッチャーが座る。確かにこの試合では畑山くんは三振、サードライナー、センターフライと無安打。なら、この試合でもヒットを量産しているショウとの勝負を避けるのは頷けるね。

「こら馬鹿雄!!いい加減打ちなさいよ!!無失点に抑えてる上杉くんが可哀そうじゃない!」

 と、会場に響き渡る女性の声。その後に会場からはどよめきと、「ああ、またあの人か」との声が上がっていた。その声を聞いた畑山くんが顔を真っ青にしてキョロキョロと周囲を見ている。あの声って確か……

「石本さんやね」

「あー……はやて、やっぱり?」

 と私は苦笑いを浮かべた。石本由佳。私たち(はやてと彩は違うけど)と同じクラスの子で、現在打席に立っている畑山くんとは幼馴染だそうだ。

「畑山くん、ここで打たなかったら、後で由佳ちゃんに殴られちゃうかな?」

「ほぼ間違いないわね。由佳って畑山のことになると周り見えなくなるのよね。今頃、自分が恥ずかしいことしたと顔真っ赤にしてるわよ」

 畑山くんの心配しているなのはと呆れた表情のアリサ。畑山くんは声の主を特定したらしく、頭を抱えたかと思うと息を大きく吸ってから右打席に立った。
 しかし畑山くんはあっという間にツーストライクと追い込まれてしまった。会場全体が延長戦だと思い始めた三球目。投手が投げたボールは外角低めのストレート。畑山くんが打ちに行き、ボールは快音を残してレフトへと飛んで行った。

「行ったんじゃない、これ!?」

 アリサが打球を見て大きな声を上げる。確かにこの角度ならスタンドに行ったかもしれない。レフトを守る選手が走ってボールを追いかけるも最後は諦めた。ボールはフェンスの向こうで大きく弾んだ。

「サヨナラスリーランホームラン!?劇的過ぎるわよ!」

「畑山くん、凄い!」

 ベンチからショウのクラスメイトが飛び出し、ホームベース付近で畑山くんがホームインするのを待っていた。畑山くんがゆっくりとホームに戻ってくると、右手で大きくガッツポーズをしてからホームを踏んだ。その直後にクラスメイトが畑山くんを叩いて祝福していた。ショウに至ってはわざわざベンチにいたクラスメイトに水を持ってきてもらって畑山くんの頭に水をかけていた。
 なんだかプロ野球のサヨナラヒットを打った選手のように揉みくちゃにされた後、畑山くんはショウとハイタッチをしていた。やっぱりあの二人は仲がいいのが一番だね。




 決勝終了後。すぐに表彰式が始まって、優勝したショウのクラスは代表として畑山くんが賞状を受け取った。なお、大会の優秀選手にはショウが選ばれ、最優秀には畑山くんが選ばれて大会は無事に終わった。
 そして学校からの帰りの道。私達とショウ、そして畑山くんと石本さんを加えた八人は一緒になって歩いていた。

「でも、上杉くんって運動上手だよね」

「せやせや、運動部に入っとらんちゅうのはもったいないで?」

「高町さん、何事も練習ですよ?」

「そこで私に話し振るの!?」

 と、この中で一番運動の出来ないなのはに無理やり話を振るショウ。ショウがどこかの部に所属しない理由は理解してるけど、やっぱり今日の試合で見せた動きとか見ていると勿体ないよね。

「そうなんですよね。上杉がいれば俺がどれだけ楽なことか」

「あんたが楽したいだけじゃない」

「雄、いつもいつも上杉くんに迷惑かけてるって自覚しなさい」

 とアリサと石本さんが畑山くんに厳しい言葉を投げると、畑山くんはシュンと静かになってしまった。それを見たショウが「口は災いのもとだと何度も言ってるだろうが……」とアリサと石本さんに聞こえないように呟いていた。
 少し騒がしいけど、こういう日もあるのもいいなとふと思う。私やなのは、はやての三人は管理局の仕事で学校に行けない日があるから、どうしてもこうやってみんなで帰るってことができなかったりするから。だからかな、こういう日が多くあればいいのになって思う。

「こらフェイト!何一人ボーっとしてるのよ?置いてくわよ!」

「え?あ、待ってよアリサ!」

 と、いつの間にか離れてしまったアリサ達を追う。その後、なのはの家である喫茶翠屋で優勝お祝いのお食事会となった。その食事会が終わった後、会費を聞いた時のショウの表情が真っ青になっていた。あれ?私は千円って聞いてたけど違ったのかな?
 それをすずかとアリサに聞いたら

「あのねフェイトちゃん。上杉くんと畑山くんは男子でよく食べるから『少しだけ』会費高くなったの」

「そういうわけよ。だから心配しないでいいわよ」

 という回答が返ってきた。い、いいのかなそれ。結局、帰る時もショウは顔が青いままだったけど、次の休みの日、クロノとショウが模擬戦をしたのだけど、またクロノがボロボロの姿になっていたけど、なんとか引き分けに持ち込んだ。
 一方のショウは傷一つなく、表情も晴々としていた。誰がどう見ても八つ当たりにしか見えないけど、何に対しての八つ当たりなのか私は見当がつかないまま夏を迎えた――





Next Side Stage02 is...
「恋のサマーセッション(予定)」
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