FC2ブログ

愛なき道

オリジナル小説「二人の戦女神」と「リリカルなのはシリーズ」の二次創作を中心に活動中

スポンサーサイト  

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

12thAction「火の鳥のように」  

 意識不明の重体――







それが主君、上杉翔の現状だと私――長光――を修理しつつエイミィ様が教えてくださいました。
 二月も初旬。私は管理局のメンテナンスルームで修理中の身。私の持っている自己修復機能では修復不能なほどの破損を負ったのが理由なのですが……どうしてこういう状況なのか。それは二日前に遡ります。
 

 二日前。違法魔導師を主君と共に追っている最中でした。クロノ様の指示によりテスタロッサ様と主君で違法魔導師の追跡を開始。しかしながら、追跡途中に違法魔導師を一度見失ってしまった為、テスタロッサ様と別れて追跡を続行。
 そして、主君に追い詰められた相手は攻撃を仕掛けてきて、それを主君と私は相手の攻撃をいなして反撃(カウンター)で終わらせようとしました。
 そこまでは主君と私にとって、いつも通りの攻撃の流れ。ですが、たった一合の攻防にもかかわらず、私の刀身は粉々に砕け散り、相手の攻撃は主君の体に達し重症を負ったのです。
 重傷を負いながらも主君は違法魔導師を追い詰めたと同時に設置しておいたバインドで相手を拘束し、すぐにクロノ様に連絡を取って犯人の身が局員によって確保されたのを見届けてから意識を失いました。
 ……あの時、違法魔導師のデバイスをよく見ておけばよかったのですが、高町様やテスタロッサ様が使用されているミッドチルダ式にカートリッジシステムを組み込んだもので、瞬間的に魔力を上げることのできるデバイス――

 ただ、シグナム様らが使用するカートリッジシステムと何度も打ち合っても平気だったのですが、つい先ほどエイミィ様から聞いた話によると、どうやら違法魔導師がカートリッジシステムを自分の持つ力以上の魔力で攻撃できるように改造していたとのこと。そういうことなら、旧式デバイスである私が一合だけで粉々に砕け散るのも納得のいくこと。
 それに、主君の魔力が不安定だったのも原因の一つ(あくまで原因の一つです)ですが、私が主君を守れなかったというのには変わりません。申し訳ありません主(あるじ)。私の実力不足で『貴女の後継者』を――

「最近の上杉君、どこか焦っているような感じがするってクロノくんと話してたんだけど、長光は何か知ってる?」

 と、何もできない為、思考の海に浸かっていた私にキーボードを操作しながらエイミィ様が声をかけてきました。焦っている……確かに主君は最近焦っていました。『あの映像』を見てから――

『……いえ何も』

 「あのこと」は今話せるような内容ではないと判断して、私はエイミィ様に嘘をついていました。エイミィ様は「そっか。ならいいんだけど」とだけ言ってキーボードの操作に専念されました。 
 すみませんエイミィ様。これだけはクロノ様やフェイト様でも私から教えることはできないのです。

 あの映像――

 きっとエイミィ様達が感じていた主君の「焦り」の原因となったものでしょう。
 その映像はかなり古いもので、私が主君のデバイスになる前ですから……今から約四百五十年ほど前の物。当時、私が主と呼んでいた一人の女性がいました。その方こそ私が初めて仕えた人物です。その人物の名は上杉謙信。
 その後に私が仕えることとなった人物が、今の主君である上杉翔様です。その間、実に四百五十年以上。どうして長期間、誰にも仕えなかったのか。それは戦乱に次ぐ戦乱の影響で私の一部が破損してしまい長きに渡って何もできない状況だったのです。
 主君に見せたのは主だった謙信公に頼まれ、私が次に仕える人物が十五歳になったら見せて欲しいと頼まれて記録した映像……。主君が十五歳になった九月二十三日。私はその日の夜になってから主君にその映像をお見せしたのです。


九月二十三日――

≪長光、本当にこれで私が映っているのか?≫

≪ええ、大丈夫です。映っておりますよ主≫

 その映像に映っているのは髪を背中まで伸ばした女性、謙信公。この時、主はすでに四十代後半。だというのに、その美貌は二十代と言っても通用するぐらいの美しさを保っていました。
 そんな主、謙信公を見た主君はほとんどの世の人と同じように驚きのあまり、身動き一つできませんでした。主君も他の人々と同じように謙信公=男だと認識していましたから、当然の反応だと思います。

≪さて……これを見ている長光の使い手よ、しばし私の話しに耳を傾けて欲しい≫

 そう前置きをしてから主は話し始めました。主の『最後のわがまま』を――





      リリカルなのは――ロンリースターズ――
         12th Action「火ノ鳥のように」







≪もし、この映像とやらを見ている使い手――そうだな……「義の心を継し者」とでも言おうか――が私を知っているのなら、さぞ驚いたことだろうな。なにせ、男だと言われていた長尾景虎……いや、上杉謙信と言った方が分かりやすいか……。私が女だったのだからな、驚くのも当り前であろう≫

 フフッと小さく笑う謙信公。俺はただ呆然と上杉謙信と名乗った女の話を聞いていた。頭の片隅ではどこかで見たような顔だなと思いながらだ。

≪私が女だろうが男だろうがどうでもよかろう。私が上杉謙信であることにはかわりないことなのだから。さて、本題に入ろうか≫

 と、真剣な表情になる謙信公。その表情を見ただけで俺は寒気を覚えた。まさに眼だけで人を殺せるようなほどの雰囲気の持ち主。これが軍神と呼ばれし者の眼――
 数秒の間、そのような眼をしたかと思ったら、今度はニコリと笑みを浮かて

≪本題と言っても、私の最後の「わがまま」だ。決してそれを護れとは言わん≫

 と少し間を開けて小さく息を吐いてから謙信公はキッと俺の方を見る――いや語弊があるな。映像の中心を見るように視線を上げて口を開いた。

≪この長光を扱っているということは、私に似ている性格なのか、もしくは長光を力で扱っているかのどちらか……。私としては前者であることを望むが、調べようにもこの世にいないのだから調べられぬな≫

 些か残念ではあるがなと眼を瞑り、大袈裟に肩を竦める謙信公。なあ、長光。この映像の時の謙信公っていったい何歳なんだ?見た感じ二十代中盤に見えるのだが……。

≪ああ、きっと……この「どうが」というものらしいが、これを見て私の歳を知りたくなったかもしれないが、既に齢四十を超えている……とだけ言っておこう≫

 なんでこっちの思っていることが分かったんだろうか。流石は軍神と呼ばれし上杉謙信。人心掌握術にも長けているという話しは本当だったようだ。

『主君、それはちょっと違っているような気もするのですが……』

「……わかってる。かなり動揺しているみたいだ」

 長光に応えている間にも謙信公の話は続いていた。

≪さて、長光を継ぎし者よ。長光を振るう目的はなんであれ、軍神と呼ばれている私が長光を振るっていたという事実には変わりない。私個人としては「軍神」という呼び名はあまり好きではないのだが……それは今は関係のない話だな。
 私は私だ。それだけで十分ではないか?なあ継ぎし者?≫

 と言って笑顔を浮かべてウインクをして見せる謙信公。この数分の動画を見ただけだというのに、俺の中で謙信公のイメージが絶賛崩壊中だ。頼む誰かこの崩壊を止めてくれ。じゃないと、俺の精神が持たない。今すぐ雄を呼んで”これ”を見せて、一緒に精神崩壊してもらいたいぐらいだ。

≪私の小さなお遊びはともかくだ ≫

「ウインク一つがお遊びですか……謙信公」

『主君、言いたいことはわかりますが、これが本来の主です』

 絶賛頭の中にあった謙信公イメージが崩壊中の影響で項垂れている俺に、悲しい現実を突き付ける長光。それにしたって「軍神」と呼ばれていた御方がこんなんじゃいやだもん。

『私は「DIVE!」とでも言えばいいのですか?』

「……ネタとしてはそれで正しいと思う」

 小さく息を吐く。もうどうにでもなれと映像の謙信公を見る。先ほどの笑みと打って変わって真剣な表情を浮かべている謙信公。

≪お主がどうなりたいかは自分で決めるがよい。無論、私の後継者となりたいというのならなるがいい。その先に待っているものが何かを知った時、お主がどう対処するか、あの世で楽しませてもらうとしようか≫

 謙信公の後継者……その先に待っているもの云々以前に、俺がそこに辿りつくまでに人生が終わっていそうな気がするのだが。そもそもだ。謙信公の後継者とか考えたことは今まで無かった。というか、今まで目の前のことに対応するのに一杯一杯だったな。

≪ふふふ、あの世に逝ってからの酒の肴もできたな≫

「そんな笑顔で言わないでください。謙信公……」

 とびっきりの笑みを浮かべている謙信公に心底呆れ果ててしまう俺。なあ、長光。言い方が悪いが、こんなお方でよく国が保たれていたなと思うのは俺だけか?まあいい。実際問題、それで国が保てていたんだから現代(今)を生きる俺がどうこう言う筋合いは無い。
 それからも謙信公の話は続いた。武術の心構えに始まり、今まで生きてきた中で教訓になるであろう事柄等、時に冗談を交えて話していた。

≪さて、私は今まで越後の民や救いを求める民の為に戦ってきた。……だが、今振り返ってみれば私は自分のことを考える余裕もないまま、今に至ったのだなと最近気付いてな……≫

 寂しそうな表情を浮かべる映像の謙信公。そうか。謙信公の兄、晴景が家督を継いだ時に謙信公(当時の名は虎千代だったはずだ)は林泉寺で教えを受けていたんだ。でも、晴景に越後を治める器量はなく虎千代は元服して景虎と名乗り、栃尾城へ攻め込んで謀反を収めて初陣を飾ったと言われている。
 それからは戦に次ぐ戦……。家督相続で兄と対峙し、越後統一では長尾政景の内紛を収める。その後は有名な川中島の合戦、小田原城の戦い、関東出兵等々戦場を駆け抜けていたと歴史に残っている。

≪だが、この人生を悔やむことはない。だがな、お主は国じゃなく誰かを護るために強くなれ。誰でもいい、愛する者や尊敬する者。無論家族でもいい。自分の大切な者だけを護れようになれ。私のように……いや、私のことはいい。
 本当に最後になるが、お主が私の元へ来た時に、今までの歩いてきた人生を後悔していないことと、お主の道に幸があらんことを願う――≫

 謙信公がそう言うと同時に映像が切れる。映像はこれで終わりのようだ。しかし、長光。謙信公が女性とは思わなかったぞ?

『私としては、後世に男として伝わっていることに驚きました。確かに男装することが多かったので、仕方のないことかもしれませんが』

「男装?……ああ、他の将軍らに見下されない為にか」

 当時の女性の地位を考慮すれば、たとえ実力があったとしても男装をしてでも同じ実力者であることを示さないといけない時代だったのだろう。しかし、謙信公の顔。どこかで見たことのある顔だが、長光分かるか?

『多分ですが……テスタロッサ様かと』

「……そうだ、テスタロッサさんだ。似ているというか髪の色が違うだけで瓜二つだな」

 よくよく映像の謙信公の顔を見直せば、テスタロッサさんそのものだ。しかし髪の色が違うだけでソックリ……いやそのまんまというのは有り得ないと思うのだが?まさかテスタロッサさんは謙信公の正規の子孫という事はないよな?

『それはありません主君。ここまで似ているのは偶然です。私も初めてテスタロッサ様を見た時、主かと思いましたが、髪の色とデバイス、それと使用する魔法の系統が少々違いましたし、何よりも魔力反応が違うということは主の血筋ではないということです』

 という回答が返ってきた。そうかとだけ答えて、俺はテスタロッサさんが使う魔法を思い出す。テスタロッサさんが使用する魔法と言えば、ソニックムーブなどの高速移動魔法や雷系魔法が中心だ。それに対して謙信公はどんな魔法を使っていたのだろうかとふと思い、長光に聞くと

『主の使った魔法は少なかったですね。主君も仕える「Protection」、「Flare shot」。……そして切り札「魔法剣」――』

「魔法剣か」

 夏休みの教導で一度だけ使用した未完の「魔法剣」を思い返す。あれはまだ未完成な為、一撃一撃の威力が不安定だ。その他に色々と細かい所で問題点が山積みになっているのが現状だ。魔力素質も影響していると思うのだが、いまいち細部の調整がうまくいかない。
 素質と言えば、俺は自分が使う魔法に「フレア」と「アイス」などと名付けてはいるが、俺には変換資質は無い。ただ単に炎と氷の魔法を母上と長光から教わったということでそう名付けているだけなのだ。
 話しが少し逸れたなと思い小さくため息を吐きつつ、現状の俺の「切り札」と謙信公の「切り札」を頭の中で比べる。俺の現在の「切り札」というのが遠距離からの砲撃魔法「FRICTION」。英語で摩擦を意味するが「フレアショット」の遠距離型、高町さんで例えるなら砲撃魔法「ディバインバスター」の劣化版。
 切り札が「魔法剣」じゃないのは、あれがまだ実戦で使用できるには程遠い完成度だというのは言うまでもないだろう。まだ「FRICTION」の方が実戦向きという現状から切り札となっている。

 それにオールラウンダーを目指すのなら、遠距離魔法の一つや二つあった方が良いに決まっている。
 が、「FRICTION」の威力は、決定的な攻撃魔法とは言えない。近戦を得意とする俺の場合、どうしても威力が落ちてしまう。近戦の「二刀流」を駆使したとしても、テスタロッサさんやシグナムさん達との模擬戦で決定打に欠けているのは痛いほどわかっている。身を持ってな……。

「長光」

 「なんでしょうか」とやや間を開けてから聞き返してくる長光。俺が何を言うのか既に理解している様子。謙信公より短い付き合いだが、お互いの性格の把握は出来ているから当たり前のことか。

「その謙信公が使っていた『魔法剣』に、俺はどこまで近づくことが出来る?」

『……時間はかかると思いますが、謙信公と同じように「切り札」として使えるまでに至れるかと』

 長光の回答に俺は苦笑を浮かべた。時間がかかるのはわかっているが、切り札として使えるまでに至れるとは思っていなかったからだ。長光のデータにも残っている「魔法剣」を考案したのは謙信公。ということは、それは俺のオリジナル魔法ではないということ。
 なら……謙信公も使っていた切り札を自由自在に使えるようになって、自分の魔法として扱えるようになってみせようじゃないか。しかし謙信公が女性なのは改めて……女性?

「女性だと?」

『どうかしましたか、主君?』

 「あること」に俺はふと気付いてしまい声を出してしまった。そのせいで長光が心配そうに問いかけてきたが「こちら」の方が重要だ。そうだ。俺は一番大切なことを見落としていた。

「謙信公が女性だったということは、母上から聞いたあの話し……謙信公が平民の女と恋に落ちたという話しは辻褄が合わない……」

 そう。小さい頃によく聞かされた、俺が謙信公の子孫であるという母上の話しに矛盾が生じることになる。あの母上が嘘を吐くような人間じゃないのは、息子である俺が一番理解している。だが、冷静に考えればおかしい。
 母上の話しではこうだった。『謙信公は平民の女性と恋に落ち、いつしか謙信公の子を身に宿った女性は静かに越後の国を去らなければならなくなった』と、何度も聞かされた話し。そしてその子供の子孫にあたるという事を――
 しかし、現実問題として、謙信公が女性だったのなら、配下の者達が謙信公の体の変化に気付かないわけがない。それに女性だったというのなら、それ相応の準備が必要になるはず。そこから世間に噂話として広まることも考えられるが、今現在の研究ではそういう資料は一切出てきていない。

『そう言われればおかしいですね。主と共に行動をしておりましたが、恋愛をする暇はありませんでしたし……』

 長光が俺の言いたいことを理解したらしく、最後の方は声が小さくなっていた。そう……つまり――

「俺は謙信公の子孫じゃないということか――?」







 そのようなことがあった数日後。僅かに主君の表情に焦りの色が浮かんでいました。鍛錬の時も、管理局で嘱託魔導師として任務をこなしている時も……。「何か」に追われている。そんな気が一緒にいた私には感じられました。
 その「何か」というのが何かというのは私にはわかりません。ただ原因と思えるのは、「謙信公の子孫ではない可能性」と「主君の母君が嘘を吐いていたかもしれない」ということが影響しているのは間違いないはずです。
 主君の母君が嘘を吐くはずは無いですが、私にはあの人は全て知っているのではないかと思えて仕方がありません。あの母君に対して私はあまりい印象を持てていません。何かを主君に対して隠している――そんな気がずっとしていました。

 それに……。主君には黙っていることなのですが、ある時、主君の母君の情報をこの地球上のデータバンクで調査したのですが「No applicable data」……つまりデータが一切無いのです。地球上のデータバンクにあるのは主君の戸籍データのみ。そもそも、主君が母君の「名前を知らない」というのは不自然です。 
 その事実を知ったのが十月下旬。このことを言ったら、主君は更に精神的に追い込まれると判断してまだ話しておりません。ただ……それが正しいのかどうか今も悩みます。

 一度思考を停止……思考再起動。

 私らしくありませんでしたね。グダグダ考えても仕方ありません。今、私がすべきなのは主君の為にどんな相手だろうと砕けぬ力を持つこと。いえ、まずは相手と同じ土俵に上がることからです。じゃなければ、今後主君を守ることもできません。

『エイミィ様、ひとつお願いが』

「ん?なにかな」

 キーボードを操作していた手を止めて、首を傾げて私の方を見るエイミィ様。

『私にカートリッジシステムの導入をお願いしたいのです――』

「え……本気なの長光?」

 突然の提案に驚かれるエイミィ様。ええ、『本気と書いてマジと読む』ぐらい本気です。今回の違法魔導師との戦いで、私のデバイスとしての能力が現代の魔導師についていけていないは明白。なら、現代魔法戦についていける力をつければいいだけ。

『駄目でしょうか?』

 もし駄目と言われたら私はどうすればいいのだろうかと不安に駆られました。今私が力をつけるにはカートリッジシステムが必要不可欠なのですから。

「うーん……相性とかの問題があるから一概にダメとは言えないけど……長光の場合、かなり難しいと思うよ?」

『構いません。主君の力になれるのでしたら』

 今は主君は悩んで立ち止まっていますが、また前へと歩き始めた時の為に主君の愛刀として戦場に一緒に赴けるようになることが、今私がすべきこと。主君。何が起きても私は貴方の――



 管理局の病院のある部屋で、一定の間隔で機械音が響く。その音と規則正しい呼吸音でショウが生きていると教えてくれている。ショウが意識不明の重体になって早三日が過ぎていた。意識を取り戻したとしても、もしかしたら普通に生活が出来なくなる可能性があると先生から聞かされた。
 ただ起きてみてからじゃないと、体のどこが動かないかわからないとも言っていた。いつの間にかショウの保護者になっていた母さんと同席していた私は、そのことをを聞いた瞬間、目の前が真っ白になった。

 頭が真っ白になったのは数年前のなのはの時以来。でもあの時と違うのは、ショウの「焦り」に気づいていながら私は何もできなかった。
 ショウに聞いても「いつも通りですよ」と笑顔で言われたら何も言えなくなってしまった。長光に聞いても「いつもと変わりありませんよ?」と返ってきたから、のどに小骨が引っ掛かっているような思いでその時はそれ以上何も言わなかった。ううん、違う。問題を先延ばしにしていただけ。
 後悔しても、もう時間は戻らない。でも……あの時、ショウにもっと聞いていれば結果は変わっていたかもしれないと思うと……。

「ごめんショウ……」

 自然と謝罪の言葉が口から漏れる。謝罪の意味は、私が犯人を見失ってしまったからショウが怪我を負ってしまったことに対して。あの時、私とショウで犯人を追っていた。でも私が犯人の姿を見失って、二手に分かれたのが今回ショウが怪我を負った原因。私がもっとしっかりしていれば、ショウが怪我をすることは無かったはずなんだ。
 それと、「焦り」に気づいていたのに、私は何もしてあげられなかった。ショウの「焦り」の原因が何なのか私にはわからない。今、私ができるのはただショウが無事に目を覚ますことを祈ることだけしか……。

「どうすればいいんだろう……」

 ショウが目を覚ましたら、話し合わないといけないのはわかっているけど、何を私は話し合うんだろう。自分でもわからないなと思っていた時、状況が変わった。

【……誰か……いますか?】

 微かに届いた念話に私はハッとした。この声は……。まさかと思いガラスの向こうで眠っているはずのショウを見る。そこには本当につい先ほど意識を取り戻したショウが目を開けていた。

「ショウ!!」

 まだ目を覚ましたばかりだからなのかな、まだ目の焦点が定まっていないように見えた。ショウに念話で「私の声わかる?」と聞くと微かにうなずくのが見えた。ショウに「少し待ってて」と伝えて私は急いでお医者さん達を呼んだ。

 それからお医者さん達と会話をして、意識がはっきりしていることと、体に不調を今のところ感じないと話したショウは、精密検査を受けるため車椅子に乗せられた。その時のショウの表情が何とも言えない複雑な表情だったけど、どうも車椅子に乗るとは思っていなかった様子。
 精密検査に行く前に、ショウとほんの少しだけ会話できたけど、やっぱり何かを抱え込んでしまっている雰囲気だった。あれはまるで――




 翔が目を覚ました。それを聞いて、僕は一息ついた。意識不明になってから三日目。「もしも」のことが頭を過って(よぎって)いたが、杞憂に終わってよかった。ただ問題なのは、怪我を負う前と同じように動けるかどうかが問題となるが、翔なら大丈夫だとどこかで思っている自分がいた。

「しかし……本気なのか長光?」

 翔が目を覚ましたという報告と共に、エイミィから渡された報告書に目を通した僕は深々とため息をついた。内容は長光に「カートリッジシステム」の導入について。「カートリッジシステム」は長光が自ら望んでの導入したことと、現在管理局のデバイス科が持てる技術で不安定な部分を少しでも減らしてあるということ。それと……これはあまり一番重要ではないと思うのだが

「フェイトと同じ型か」

 報告書の最後に、フェイトのバルディッシュと同じ「カートリッジシステム」を導入したと記述されていた。確かあれはなのはのとは違って、拳銃で例えるとリボルバー式というやつだったな。
 「カートリッジシステム」の導入部分は、刀身が柄から抜けないようにするための留め具(目釘)を通す穴がある「目釘穴」と呼ばれる部分よりやや切先寄りだそうだ。
 ……ハッキリ言ってしまうと、どの部分のことを指すのか僕は理解できていない。そもそも長光のような剣を僕は見たことが無かった。あのような細い剣でどうやって昔の人は戦っていたのだろうかと疑問に思う。
 ……とにかく、長光に「カートリッジシステム」を導入することはわかった。ただ、最近の翔は焦っているように見えるのだが、僕の気のせいならいいのだがな……。何があったかは僕からは聞かない。翔の性格上、聞いても話してくれないのは目に見えている。なら、自分から話してくれるまで僕は待つだけだ。
 まだ付き合いは短いが、翔の性格は大体把握できているからな。ただ、また今回のように重体になるようだったら、その前に止めないといけないな。

「はぁ……あまり仕事以外で問題は抱えたくはないな」

 椅子に全体重を預けて天井を見ながら一人呟いた。




 俺が目を覚ましてから五日後。精密検査の結果が出た。結果は特に問題なし。怪我の具合も予想以上に早くに回復しているとのこと。
 検査結果が出るまでの間、基礎的な魔法を使用すら禁じられてしまった為、何もできないまま一日中、同じ場所で横になっているのは精神的苦痛だった。それでも目を覚ましてから三日目には、雄がクロノの許可を得てまで見舞いに来てくれた。その時に「暇だろうから、お勧めの小説持ってきた」と、紙袋にこれでもかと言わんばかりに大量の小説を持ってきてくれた。
 
 ただ、その大量の小説には数多の地雷が仕込まれていた為、俺が精神的苦痛を味わうことになった。例えを挙げたい所だが、雄の名誉のために止めておこう。
 それでも良い作品に巡り合えたのは僥倖。ただ、挿絵が……雄好みの絵が多過ぎてもう何も言えなかった。
 
「ふう……」

 呼んでいた小説をテーブルの上に置いて溜息を吐いた。目を覚まして、すぐに精密検査に回された時はもう二度と普通の生活は出来ないのだろうと覚悟した。車椅子じゃないと移動できなかったのだから。
 二日目までは全身に倦怠感を覚えていたが、三日目には小説を読める程度まで回復していたのには自分自身驚きを隠せなかった。そして現在。少しだけ動けるようになった体にホッとする半面、あの時のことについて冷静に考えていた。

 あの時――

 違法魔導師を追跡していた最中、長光に送る魔力がいつも以上に不安定だったのは分かっていた。それが原因で長光はたった一合で砕け散った。全て俺の中にある「焦り」が原因だ。
 俺の中にある「焦り」……それは謙信公の子孫じゃない俺は、「謙信公の後継者」として本当に相応しいのか。それとも俺は――

『相変わらず、小難しい表情をしておりますね。主君』

 聞きなれた声に驚きを隠せず、俺はバッと後ろを振り返る。そこにはいつの間にか病室に入ってきていたエイミィさんが立っていた。目を覚まして精密検査を受けた後に、長光の状態を説明しに来てくれた。その時受けた説明だと、長光はしばらく時間がかかるかもしれないとのことだった。

「ヤッホー。上杉くん、お届け物だよ」

「あ、ありがとうございます」

 といつも通りの笑顔で右手に持っていた長光を俺に渡してくるエイミィさん。それを右手で受け取り長光の名を呼ぶ。

『なんでしょうか?』

「もう……大丈夫なのか?」

 あの違法魔導師戦にて、一合の攻防で刀身が粉々に砕け散った長光。それからまだ数日しか経っていない為、俺は本当に修復が終わったのかと疑問を抱いていた。

「大丈夫だよ。この私、エイミィがきちんと修理したから安心していいよ」

「あ、ありがとうございます」

 と俺を安心させるように話してくれたエイミィさんにペコリと頭を下げる。エイミィさんは俺が眠っている間、ずっと長光を修理していたのだということに、エイミィさんの顔を見て俺は思った。
 じゃなければ、眼の下に色濃いクマが出来ているわけがない。あそこまで破損していたんだ。修理はかなり難しかったに違いない。

「……色々と改造に夢中になっちゃったんだよね」

 何かボソリと呟いたエイミィさん。不穏な発言が聞こえた気がするのだが気のせいだと思いたい。その後、エイミィさんはすぐに部屋から出て行ってしまった。
 俺と長光しかいない病室。静かな時がしばし流れた。長光に謝らないといけない。俺の「焦り」で魔力配給が不安定になった為に、砕け散ってしまったのだから。だが、言い出す切っ掛けが掴めない。いきなり謝るのもおかしいだろう。何かワンクッション置くべきか?

『主君、まさかと思いますが、この前の事件で私が砕け散ったのが「自分のせい」と思っておりませんか?』

 人の心を読んだかのように聞いてくる長光。どうして分かった?

『何年主君と共に歩んできたと思っているのですか?そのぐらいお見通しです』

 と、姿があったら左手を額に当てて深々とため息を吐いていそうな口調の長光。……だが、長光が砕け散ったというのには変わりない。俺がもっと強ければこんなことには――

『なりました。今だから言えますが、相手のデバイスは違法に改造された「カートリッジシステム」による攻撃にフレームが耐えられなかったのが原因です。ですので、魔力配給が完全だったとしても私達は負けていました』

 それを聞いて「カートリッジシステム」なら、シグナムさんやテスタロッサさん達のデバイスと何度か競り合ったけども、その時は大丈夫だったじゃないかと言いかけ、俺はあれが模擬戦だったから問題なく戦えていたのだと気付く。
 
『今回はデバイスの私が旧型だった為に起こるべくして起きたことです。……申し訳ございません、主君。ですが、今度は負けません。今度こそ主君を守ることをここに誓います』

 「ただ、主君がそれを望むのであるのならば」と付け加える長光。長年一緒に居て、こんなことを言うことは無かった長光。それだけ今回のことを重く受け止めているようだ。ただ、長光の誓いに俺は応えられるだろうか。謙信公の子孫じゃない俺が――

『主君、いつまで立ち止まっておられるおつもりですか?』

 思考の海に入りかけた俺に厳しい口調で話しかけてきた長光。突然のことで一瞬思考が停止しそうになったが、静かに長光を持つ右手を見る。

『言いたくありませんでしたが、これ以上今の主君を見ているとイライラしてしまうので言わせてもらいますが、ウジウジ悩んでる暇があるなら前へ進んだらどうです?』

「……」

 俺は長光の言葉に黙りこんでしまう。確かにその通りだ。目を覚ましてからずっと悩みの悪循環に陥ってしまっている。俺は今まで何をして来ていたのすらわからない。

『そもそも、先祖が誰だとか母君が嘘をついているいないに関わらず、主君は主君です。例え世界中が主君を否定したとしても、私は主君を否定しません。私が認めた「二人目の主」なのですから』

 長光の言葉にピクリと反応する。確かに心のどこかで「謙信公の子孫じゃない可能性もあるな」と冗談半分で思ったことは小学校の頃に何度もあった。だが、それは冗談で思っただけで真剣に考えてはいなかった。
 現実に『謙信公の子孫ではない』ことが突き付けられた時、今まで経験したことがない動揺が俺を襲った。その動揺は今もまだこの胸の中で水の波紋のように広がっている。

『今もまだ主君が「あのこと」で動揺しているのはわかります。ですが……今までしてきた努力を、あの程度の問題に一回躓いただけで、このまま蹲って終わらすつもりですか?それで、天から見ている我が主、上杉謙信が満足するとでも?
 それに……、主君の歩むこの道は主君でしか成し遂げられぬ道。例え生まれや血筋が不明だからと言って、今まで歩んできた道が意味の無いということではありません。』

 一度そこで話しを区切る長光。俺は長光の言葉に何も言えなかった。確かにそうなのは理解している。でも……。何も言わない俺を見てか少し経ってから再び口を開く。

『……厳しいことを言っているのは重々理解しております。ですが、今の主君はそれほどまでに情けなく見えます。「これが私に軍神の再来と思わせた主君なのか」と思いたくなるぐらいに。というか、どこの近年急増中の草食系男子ですか、主君』

「お前……そこまで言うか?」

『事実ですから』

 アッサリと答える長光に俺は右頬を引き攣らせる。ただ、長光が俺をどれだけ心配しているかは伝わった。なあ長光……俺はどうすればいい?

『どうするって決まっているじゃないですか』

「?」

 長光の言葉に俺は首を傾げる。何がどう決まっているんだ?

『主君は、主君の道を行くだけです』

「……俺の道?」

『誰も主君に「正義の味方」や「上杉謙信のような軍神」になれとは言いません。「上杉謙信」は「上杉謙信」でしかなく、主君は主君でしかないのですから。主君は、主君なりの「軍神」となればいいじゃないですか。ええ、「誰か一人を護るために戦う」それでも大いに結構です。
 どんな道を選んだとしても、私は共にその道を歩みましょう。それが主君のデバイスである私の役目です。ですが、間違った道を行こうとした場合は説教させていただきます』

 と長光はいつも以上に饒舌に喋る。もし姿があったら右手で口元を隠して、ニヤリと笑っているのが目に浮かんだ。俺は長光の言葉を心の中で反芻する。

俺は俺の道を行けばいい――

 それが出来ればどれだけ楽なことか、と心の中でボヤく。「俺の道」というのが何かが分かっていない今、俺は何をすればいいというのか。謙信公のように「軍神」と呼ばれ、孤高の存在になるのが俺の道なのか、それとも長光が言ったように「誰かを護る為に戦う」のが俺の道なのか――

『そんな物、ゆっくりと見つければいいのですよ主君』
 
「そ、そんな物って……」

『グダグダ考えるよりも、今できることを精一杯やりましょう。それからでも遅くは無いかと思います。少し慌て過ぎです、主君』

「……」

 「慌て過ぎ」と言われて、思う所が有りすぎて黙りこくる。ああ、確かにそうだ。「あの動画」を見て以来、俺は「謙信公」に一刻でも早く近づこうとして――

『慌てても、焦っても駄目な時は駄目なものです。何度転んだって構いません。その度に不死鳥のように立ち上がれば良いじゃないですか。……ゆっくりと確実に歩みましょう、私達の道を』

「不死鳥のようにか……確かに、まだ青二才なのに人生を急ぎ過ぎか」

 冷静に考えれば、戦国時代で言えばまだ成人したての若造。そんな奴が生き急いでいる姿なんて、さぞ滑稽だったに違いない。その滑稽な姿を周りに見せていたと思うと、自分の事ではあるが情けなく思う。
 三度、思考の海に入りかけていた時だった。部屋の入口からど派手な音が聞こえた。大きな物音がすれば、人間誰だってそっちの方を見るものだ。俺は音のした方向を見て思考が停止した。
 そこには金色の髪が扉の隙間から見えていたからだ。俺の知り合いで金色の髪の持ち主は二人しかいない。バニングスさんとテスタロッサさんだ。ああ、もう一人いたような気がするがまあいい。
 ……よく、こういう時に起こりやすい事を雄に答えさせたらこう言うに違いない。

【イベントだろ?そうだな……部屋の外でコッソリ部屋の中で繰り広げられていた話しを聞いていたらな、ドアが少しズレたせいで倒れちまうんだ。それで話を盗み聞きしていた相手はお前のことが好きだったわけで――】

 ……Okay。現実逃避完了だ。ありがとうな心の中の雄。なんとなくだが、満面の笑みで右手の親指を立てている雄の姿が想像できた。というか、あいつなら絶対そういうポーズをとっているに違いない。

『主君、そんな現実逃避で大丈夫ですか?』

「一番いい現実逃避を教えてくれ」

 どこかで聞いたような覚えのあるやりとりを長光としてから、深々と溜め息を吐く。どうして「あの人」がいると早く気付かなかった?長光、お前気付いていてワザと気付かないフリしていたな?

『Yes、sir』

 長光に完治したら覚えておけよと伝えてから、ベッドから降りて静かに扉まで歩いて行く。少し痛む体。一度息を吐いてから勢い良くドアを開ける。そして眼の前に登場したのは、何故か「尻もちをついたような格好」をした獅子のように燃える金色の髪の持ち主、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンさんだった。

「あ、あはは……こんにちはショウ?」

「なんで疑問形なんですか……」

 俺は引き攣った笑みで挨拶してくるテスタロッサさんを見て頭痛を覚えるのだった。どうやら、話しのほとんどを聞かれていたみたいだ。どうして俺はこういう所で運が無いのだろうかと心の中で呟き天井を仰いだ――



 その日、私がショウのお見舞いに来たのは偶然だった。ショウが目を覚ました時以来のお見舞いだったんだ。本当なら毎日来て、ショウの悩みについて聞こうかと思っていたんだ。でも、任務やら書類整理で今日になってしまった。
 途中エイミィが長光をショウに渡しに来ていたらしく、エレベーターから降りる時にちょうど会って、少しだけ会話をして別れた。眠そうな目を擦りながら「今から帰って眠る」って言ってたけど、またデバイスの修理か改造に夢中になっていたのかな。きちんと休まないといつか体壊しちゃうよ、エイミィ……。
 私が、ショウのいる病院の個室の扉を開けようとした時、部屋の中から話し声が聞こえた。その声はショウの物ではなく、誰かがショウに対して本当に心配している、そんな感じだったので私は中に入るのを躊躇った。

(ショウと誰だろう?)

 ショウと話している人が誰かと想像しつつ聞き耳を立てる。

『そもそも、先祖が誰……母君が……に関わらず、主君は……です』

 途切れ途切れに聞こえる会話。ショウのお母さんがどうしたのかな?それ以前に、この声の主はショウのデバイス長光だね。途中からだから話しがあまり見えてこないけども、長光が最近のショウの状態について心配しているようだった。

(それ以前に、今入ったら気まずいよね)

 「このまま帰った方がいいかな?」と思い静かに引き返そうとしたけども、次に聞こえた言葉に私はその場から動けなくなった

『例え生まれや血筋が不明で……今まで歩んできた道が……ありません』

(生まれと血筋が不明?)

 確かショウは上杉謙信という四百年ほど前に生きていた人の子孫って言っていたのは覚えているのだけど……。最近のショウの焦り、この前見せたあの何か抱え込んでいるような雰囲気は、その事が影響しているのかもしれない。
 そう思った私は扉に耳を当てて、ショウと長光の話しの内容を聞いた。はたから見れば怪しい人にしか見えないかもしれないけど、あの雰囲気がどうしても気になって――

(あっ……)

 話を聞くことに集中しすぎて扉が少し開いてしまっていたことに気づくのが遅れ、バランスを崩した私は派手な音を立てて倒れた。
 ど、どどどうしよう。今すぐこの場から離れないと。と、軽いパニックに陥りながらその場から離れようとした時、部屋の扉が開いた。そこには病院服を着たショウが、明た表情で立っていた。

「あはは……こんにちはショウ?」

「なんで疑問形なんですか……」

 今の私は尻もちをついた時のような格好で、とても恥ずかしくて右頬が引きつってしまった。それを見たショウはどうしたものかと悩んだ表情でそう呟いた。


 今現在、病室に入ってショウに促されて椅子に座っているのだけども

(聞き耳立ててたから話しにくいよね……)

 当たり前と言えば当たり前だけど、とても重くて気まずい空気が病室内に流れていた。原因は私なのは言うまでもないんだけど、とても居づらい。今すぐ走って病室から逃げ出したい気分。

「何度もありがとうございます。見舞いに来ていただいて」

「え、あ。う、うん。」

 ショウが気をきかせてくれたのか、話しかけてきてくれたお陰で若干病室内の空気が軽くなる。でも、私からは何も聞けない。そんな私を見てショウは深々とため息をついてから

「どこまで聞いていました?」

「え?」

 間の抜けた声を上げる私。まさか、ショウの方から聞いてくるだなんて思いもしなかった。え、と……

「ああ、素直に答えて頂いていいですよ。怒ってはいませんので」

 言いにくそうにしている私を見て、笑みを浮かべながら話すショウ。笑っているのにどうしてだろう。目が笑ってない。声は明るいんだ。表情も目以外の部分は普通に笑っているように見えるんだけど、どうしても目が笑っていないように見えたんだ。き、気のせいだよねと自分に言い聞かせつつ聞いていた部分を素直に話す。

「えと……先祖が誰から、長光が『ゆっくりと歩みましょう私達の道を』って言った部分まで……かな?」

『ほとんどですね、テスタロッサ様』

 呆れた口調の長光に私は苦笑いを浮かべるしかなかった。ちょうど、話している時にきたのだけども、話の内容は最初の方だったみたい。

「聞かれたからには仕方ないですね。今後注意して下さいよ?」

「う、うん。今度から注意する。ごめん、ショウ」

 ショウの口調があまり怒ったような口調じゃないことに、ホッと小さく一息ついた。もし、何も話せないままだったら、ショウがあの時に見せた「何か抱え込んでしまっているような雰囲気」について聞くことが出来ない。そうでなくても、今も完治まで程遠い状態で無理しているように見える。今、ショウはベッドに腰掛けているけど、体が小刻みに震えているのが見ていてわかる。

「聞かれたのは仕方ないとして……どうする長光?」

 困惑した表情を浮かべつつデバイスの長光に聞くショウ。どうやら決めかねているみたい。でもどうするって、記憶操作なんて局員個人では出来ない決まり。それ以前に上司の許可が必要になるからそれはないはず……。って、なんでわたしそんな最悪なこと考えたんだろう。そんなことショウがする訳が――

『どうするもこうするも、全部話してしまった方が後々楽かと思われます』

 「だよな」と呟いてから腕を組んで悩む素ぶりを見せるショウ。話しを聞いていたと言っても、途切れ途切れだったから詳しい内容は全くわからないのは言わなくていいのかな?

「……今から話すことは他言無用でお願いしますよ?」

 と眼をこちらに向けるショウ。「いいですよね」と目で訴えてきていたので私は頷く。これからどんな話しがショウからされるのだろうかと不安になる。本当なら、私が聞いてはいけないことかもしれない。でも……ショウが話してくれるのなら私は聞きたいんだ。友達として。

「事の発端は九月二十三日に遡ります」

 ショウは静かに、それでいて淡々とその日にあったことを話し始めた。上杉謙信が残した映像の事。上杉謙信が女性だったこと。そして……

「謙信公が女性だったことから、母上が聞かせてくれた子孫だという話しが矛盾していることが分かりまして……」

 目を閉じて右手を額に当てて黙るショウ。眉間にはシワが寄っている。何か考えているみたい。
 それを見て私は、頭の中でショウから聞いた情報を整理する。確か前聞いた話しだと、上杉謙信はどこかの村に住んでいた娘と恋に落ちて……。
 そう。ショウがあの時、翠屋で話してくれた内容と食い違う点が多くある。まず、上杉謙信が女性だったこと。それと、上杉謙信が恋に落ちることは無かったという長光の発言。

「そういうことがありまして、ここ数カ月焦っているように見えたかと思います。思っていた以上に弱かったみたいです……精神的に」

 自嘲めいた笑みを浮かべるショウ。……ここ数カ月、ショウが焦っているように見えていたのは確かだけど、そこまで自分を貶めるようなこと言わなくてもいいと思うんだ。
 だって、ショウの焦りに気づいていながら何もできなかった私にも責任はあるんだ。気楽に相談できるようにしてあげられなかったから……。

「それでも、自分の弱さが分かったのは私にとってよかった」

 ショウは冷静に、それでいて淡々と話しているけども、私はその表情からショウが無理をしているのではと思った。ショウの表情がとても辛そうに見えたから。

「ショウ……無理してない?」

「無理?いいえしていませんよ。ただ……謙信公の子孫じゃなかったことは寂しく思いますね」

 あ……そうだ。ショウのお母さんから聞いていた話しに矛盾があったということは、ショウが上杉謙信の子孫じゃないかもしれないということ。尊敬する人に上杉謙信の名前をすぐに出して、夏休みの終わりにはお墓参りにまで行くぐらい、ショウは上杉謙信の子孫であることに誇りを持っていた。

「それで落ち込んで……さっきまで長光に怒られてました」

「え?」

 ショウの言葉に驚く。「長光に怒られていた」?さっきの会話――途切れ途切れであまり聞きとれなかったけど――を思い出す。ショウが今まで歩んできた道がどうたらこうたら……。
 あれ?今まで歩いてきた道って言っても、ショウと渡し同じ年齢だよ……ね?ちょっと話が飛躍しているような気がするんだけど。

「まあ飛躍はしているように思いますが、長光の言い分は正しいかと……」

『テスタロッサ様。細かい所は気にしないで頂けると私としても助かります』

 そ、そうだよね。ごめん。部外者の私が言えた義理じゃないよね。そう私が謝るとショウは謝る必要は無いですよと言ってくれた。ありがとうショウ。
 少し間を開けてショウが何か言おうとした時だった。勢いよく病室の扉が開いて――

「よぉ『孤高の侍』!死んだか!」

「『死んだか』ではなく、この場合は『元気か』と言うべきだ……クラリティ」

 と元気よく登場したのは満面の笑みを浮かべた、私より年上な感じの男性と、朱色の長髪が特徴的な女性が呆れた表情で入ってきた。
 え、と……ショウの知り合い?それ以前に「孤高の侍」って誰のことだろ?

「あ、これはフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官じゃないですか!」

「え、あ、はいそうですけど……」

 男性の勢いに驚きつつそうだと答える。私は助けを求めるようにショウの方を見る。だって、いきなり知らない人に自分の名前を言われたら誰だって混乱するよね、ね?それを見てショウは深々とため息を吐いて

「クラリティさん……テスタロッサさんとは初対面なのですから、きちんと挨拶をするのが礼儀ではありませんか?」

「全くもってウエスギの言う通りだな。クラリティ、お前は少し礼儀を学ぶべきだ」

 と、冷めた口調でクラリティさん(?)に忠告する女性は私と向き合うと、頭を下げて

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官失礼をいたしました。私はフォルツァ・ファーネル二等空尉です。名前で読んでいただければ幸いです。ウエスギとは昨年八月の教導で同じチームでして今回はお見舞いに、と。以後お見知りおきを……」

「あ、えと。私はフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です。こちらこそよろしくお願いします」

 礼儀正しい人だなと思いつつ、私も名乗る。あれ?でもなんで私の名前を?と思ったけど、何度か管理局関連の雑誌でインタビューを受けたのでそれのせいかな?
 と少し混乱していると、クラリティと呼ばれた男性も私に向き合って

「俺は「クラリティ・ヘルナンデス執務官補佐、十八歳。現在執務官になる為、猛勉強中とか言ってる珍しい近戦ミッドチルダ式デバイスを使用しています」ってウエスギ!?」

 と、ショウがクラリティさんが自己紹介する前に紹介してくれた。その光景を見て小さく笑みを浮かべるフォルツァさん。教導で同じチームだっただけあって息が合ってるね。ショウがあの時――教導終了後――に言っていた「知り合いが増えた」ってのはこの二人のことみたい。

「それで、怪我の具合はどうだ『孤高の侍』?」

 と、私の隣に椅子を持ってきて座るクラリティさん。それを見て渋い表情を浮かべつつも同じように椅子に座るフォルツァさん。「孤高の侍」ってなんだろうと思いつつも今はショウとクラリティさんが会話しているので聞ける状態にない。でも、「孤高」は世の中の人達と離れた感じのイメージがあるのだけど……。
 クラリティさんの言葉に、ショウはまったく気にした様子も見せずに肩を大げさに竦めて

「まあまあといった所ですよ。後遺症は無いとは医者の言葉です」

「そっか。なら安心だな。しかし、お前ほどの実力の持ち主がやられるとは思いもしなかったなぞ。なあ、フォルツァ?」

 クラリティさんの言葉に「全くだ」と頷くフォルツァさん。なんでも、ショウが怪我を負ったという情報が入ってきた時、大変驚いたそうで、時間のかかる任務を昨日までに片付けてお見舞いに駆けつけたとのこと。
 その後、クラリティさんとフォルツァさんを交えて色々な話しをした。二人ともいい人で、私に対してもよくしてくれて、フォルツァさんとは暇な時にでも連絡を取り合おうという話しになった。
 結局、あの時ショウが何を言いかけていたのかわからないまま、あっという間に時間が過ぎて私は病院を後にした。
 そのショウが言いかけたことが、私とショウが対立する原因になるとは、私は知らなかった――



Next Action is...
「FRICTION」
コメント
コメントの投稿
Secret

トラックバック

トラックバックURL
→https://lonelystars51.blog.fc2.com/tb.php/58-b2c514aa
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

総来訪者数

プロフィール

Are you ready to Action?

リンク

カレンダー

カテゴリ

最新コメント

最新記事

Message

検索フォーム

QRコード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。